旅行・地域
2025年9月18日 (木)
2025年9月17日 (水)
那須高原・茶臼岳登山記
今夏、那須高原を訪れ、那須岳の主峰・茶臼岳(標高1,915メートル)に挑戦しました。
前夜は麓の温泉ホテルでしっかりと英気を養い、翌朝ロープウェイで山頂駅へ。気軽な気持ちで歩き始めたのですが――これが想定外のハードさでした。日頃ほとんど歩く訓練をしていない身には、まさに試練の道のり。
茶臼岳は硫黄の匂いと噴煙が漂う活火山(火山活動レベル1)の百名山です。火山特有のガレ場が続き、草木はほとんど生えていません。ゴロゴロした岩が道を覆い、足元はとにかく不安定。さらに風が強く、帽子が飛ばされそうになりながら、柵やロープにすがって一歩一歩登りました。

コースタイムの1.5倍もの時間をかけ、ようやくたどり着いた山頂には鳥居が立ち、那須神社奥社が祀られています。霞む関東平野を遠望しながら、噴火口跡のお鉢を巡ると、荒々しい活火山ならではの雄大な景観が広がっていました。
しかし下山途中、慎重に歩いていたにもかかわらず、ロープに頼りすぎて岩に腰を打つアクシデント。やはりこの山は決して侮れない険しい山だと痛感しました。
それでも何とか歩き切り、無事に下山。時間も体力も想像以上に費やしましたが、山の美しさと厳しさを同時に味わえた貴重な体験となりました。
……とはいえ、正直なところ、これで山登りはもう限界かもしれません。
殺生石へ
帰途、那須の名勝・殺生石に立ち寄りました。ここは松尾芭蕉も『おくのほそ道』で訪れたという国指定名勝地です。
あたり一面には岩石が転がり、立ち込める硫黄の匂い。荒涼とした風景が広がり、どこか異界に迷い込んだかのような独特の雰囲気を醸し出しています。
遊歩道を進むと、やがて殺生石に至る賽の河原に、赤い帽子をかぶった無数の地蔵たちが並んでいました。これが「千体地蔵」。静かに佇むその姿から、長い年月の祈りと歴史を感じさせられました。
2025年4月18日 (金)
パリのサンティエ界隈を散策して
パリ中心部に位置するサンティエ地区は、織物業や卸売業の拠点として知られ、これまで何度も訪れてきた馴染みのある場所です。けれど今回の旅では、あらためて街を歩くことで、新たな発見がいくつもありました。その中から印象に残ったスポットをいくつかご紹介します。
オアシス・ダブキール(Oasis d’Aboukir)
アブキール通りとプチ・キャロー通りの角にそびえる、植物の壁。フランスの植物学者パトリック・ブランによって考案されたこの垂直庭園は、今でこそ一般的になった縦型ガーデニングの先駆け的存在です。私も十数年前にここを訪れ、当時としては珍しいその景観に感動したことを覚えています。
隣の建物の壁には人気漫画『タンタン』が描かれており、植物の壁との対比がなんともパリらしく、思わず足を止めて見入ってしまいました。
LVMHメティエ・ダール(Metiers d’Art)
レオミュール通り69番地には、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン・グループのクラフトマンシップとクリエイティビティの架け橋となる「LVMHメティエ・ダール」の施設があります。
2015年に創設されたこの組織は、牧畜やなめし加工、金属加工、繊維・ファブリック生産といったクラフト産業の支援を通じて、ラグジュアリー製品に欠かせない伝統技術とサヴォワールフェールの継承を目指しています。
日本企業との連携も進んでおり、2023年にはデニムメーカー「クロキ」や西陣織の「細尾」とパートナーシップを締結。今年は日本初の「アーティスト・イン・レジデンス・プロジェクト」が開催され、選出されたアーティスト米澤柊氏がクロキに6カ月間滞在し、創作活動を行うそうです。作品公開が楽しみですね。
パリ最古のパティスリー「ストレー(Stohrer)」
この地区には、昔ながらの石畳が美しいモントルグイユ通りがあります。ここにはパリジャンに愛される食料品店や雑貨店が軒を連ね、街歩きが楽しいエリアです。その51番地に店を構えるのが、1730年創業のパリ最古のパティスリー「ストレー(Stohrer)」です。
エリザベス女王もお亡くなりになる前の年に訪れたとされ、店内は地元の人々や観光客でにぎわっていました。私も看板商品の「ババ・オ・ラム」を購入し、ホテルでいただきました。ラム酒の香りとたっぷりのクリームが絶妙で、とても美味しかったです。
2025年4月 5日 (土)
再公開されたパリのノートルダム大聖堂を訪れて
パリのノートルダム大聖堂は、私にとって最も心惹かれる場所のひとつです。2019年に火災で大きな被害を受けたときのショックは、今でも忘れられません。
それが昨年12月に修復され、ついに一般公開されたと知り、パリを訪れたら絶対に足を運ばなければと思っていました。今回、念願叶って再訪できたことを、心から嬉しく思います。
平日の朝一番だったため、予約なしでもスムーズに入場できました。中に足を踏み入れた瞬間、その壮大な空間に圧倒され、改めてそのスケールの大きさを実感しました。意外にも内部は明るく、荘厳さと開放感が見事に共存しています。
見学ルートに沿って進むと、側廊にはいくつもの礼拝堂が並び、絵画や壁画、彫刻、調度品などの宝物が展示されています。
神聖な祭壇や見事なバラ窓も、かつて焼け落ちたとは信じられないほど美しく蘇り、まるで新たにオープンした美術館のようでした。
これほどのスピードで修復を成し遂げたフランスの技術力と情熱に、ただただ驚かされました。ノートルダム大聖堂の再生は、歴史的建造物の保護と復興の素晴らしい手本となりそうです。
2025年2月28日 (金)
ミラノの邸宅美術館 ネッキ・カンピリオ邸を訪ねて
ミラノでぜひ訪れたいと思っていた邸宅美術館、ネッキ・カンピリオ邸(Villa Necchi Campiglio)。
ここは、ミシン製造で財を成したネッキ(NECCHI)社を経営していた姉妹ネッダ・ネッキとジジーナ・ネッキ、そしてジジーナの夫アンジェロ・カンピリオの住居として、1938年に建設されました。2001年には、イタリアの歴史・芸術・景観遺産を保護する団体 FAI(Fondo per l'Ambiente Italiano) に寄贈され、現在は美術館として公開されています。
エントランスを抜けると、手入れの行き届いた庭園が広がり、その先に優雅な城館が現れました。大都会の中心に、これほど静寂と緑に包まれた空間があることに驚かされます。
ミラノ上流社会のエレガンスと洗練を象徴する建築様式を堪能し、豪華なサロンを巡ると、まるで1930年代にタイムスリップしたかのよう。ピカソやモディリアーニといった巨匠の名画を含む素晴らしい美術コレクションも、この邸宅の格調高さを引き立てています。
また、この邸宅は映画のロケ地としても度々使用されており、2009年制作の映画『ミラノ、愛に生きる』 では、ここが舞台のひとつとなりました。スクリーンを通して憧れたあの美しい空間を、いま実際に歩いていることに感動を覚えました。
前庭にはプールがあり、庭を巡る遊歩道の散策も心地よいひととき。次回はもっと時間をかけて、ゆっくりとこの邸宅の魅力を味わいたいと思いました。
2024年12月23日 (月)
「江戸の祭神 弁財天と不動明王」展 浮世絵が描く江の島
藤澤浮世絵館で、今月半ばまで企画展「江戸の祭神と不動明王」が開催されていました。藤沢市に浮世絵美術館があり、しかも無料公開されているとは驚きでした。とても興味深い内容でした。
本展では、藤沢市が所蔵する弁財天信仰に関する資料に加え、千葉県や船橋市に伝わる郷土資料を数多く所蔵する船橋市西図書館から提供された、成田詣や不動明王に関する貴重な浮世絵や資料が64点展示されていました。
中でも特に印象的だったのは、江の島にまつわる浮世絵の数々です。今年の夏に江の島の「トンボロ」(干潮時に浅瀬が現れ、海岸から陸続きになる自然現象)を初めて体験したこともあり(このブログ2024年6月28日付参照)、江戸時代に描かれたその情景に心惹かれました。
展示されていた歌川広重のや「相州江之嶋弁財天開帳詣群集之図」(上写真)は、江戸の人々が江の島に寄せた憧れや信仰を鮮やかに伝えています。
右はチラシのビジュアルで、「江之嶋弁財天開帳詣」です。
また、「江の島」がかつて「江之嶋」と表記されていたことも知り、歴史の深さに感銘しました。
この地はお伊勢参りに匹敵する参詣地として、江戸時代には特に女性たちに人気があったといいます。その理由として、江戸からのアクセスが良く、風光明媚で古い寺社が多いこと、そして弁財天が女性の神であることが挙げられるようです。
藤沢や江の島は私にとってなじみ深い場所ですが、今回の展覧会を通じてその豊かな歴史や文化に改めて触れることができ、貴重なひとときを過ごしました。
2024年9月20日 (金)
今夏の旅は熊野路へ ⑶ 瀞峡巡りと伝説の岬へ船の旅
熊野では二つの船の旅を楽しみました。
一つは、国特別名勝・天然記念物の瀞峡巡りです。「瀞」という文字は、「とろ」または「どろ」と読み、「川が深くて、流れが非常に静かなところ」の意味だそうです。
乗船場は山の中にあり既に秘境中の秘境でした。ライフジャケットを身につけ小さな和舟に乗り込みます。
圧巻は「瀞八丁(どろはっちょう)」です。荒々しく切り立った断崖が巨岩・奇岩とともに立ち並び、エメラルドブルーの水面に上下反転した形で映り込んでいます。
その鏡のような川面の幽水美を目に焼き付けて、奥へ奥へと進むとカヌーを操る人の姿や、瀞ホテル(今はカフェ)が見え、こんな神秘的な大峡谷にも人の営みがあることにビックリ!
暑さを忘れさせる清涼感にあふれた40分間の川旅でした。
もう一つは、楯ヶ崎観光遊覧です。楯ヶ崎は神武天皇が八咫烏に導かれて上陸したと言われている伝説の岬です。
船は鬼が城に近い松崎港を出発、鬼が城の大小無数の洞窟や奇岩奇勝を横目に、一路楯が崎を目指します。
大きな洞窟の穴が開いた青の洞窟、通称「ガマの口」にも立ち寄りました。昔、行ったことのあるナポリの青の洞窟のように中に入ることはできなくて、近づいただけでした。
大昔、古代の人々はこうした洞窟に遺体を水葬したそうです。船の揺れもあって、正直怖かったです。
楯が崎は、太古の火山噴火による大自然が生み出した、日本一の柱状節理の大岩壁が広がるリアス式海岸です。神武天皇の最終上陸地で、ここから大和へ向かったと伝えられています。
そんな歴史のロマンに馳せながら、ふと海を見ると、トビウオの群れがさっそうとしぶきを上げて飛び交っていました。
「飛魚や 熊野に別れの 波しぶき」
2024年9月19日 (木)
今夏の旅は熊野路へ⑵ 熊野は黄泉の国への入り口?
熊野で興味深く思った神社が、花の窟神社です。「花の窟」の由来は、古来から岩に花を供えてお祭りしたことからだそうです。
ここは日本書紀にも記されている日本最古の神社で、切り立った崖がご神体で窟のようになっています。前に立つと、どこか霊気が漂っているかのような神聖な空気感がありました。
この窟はいざなみの命のお墓で、黄泉(よみ)の国への入り口?と言われているとか。
黄泉の国は死の国を意味しますが、その意味するところはカオスの世界であり、無限のエネルギーが秘められている宇宙です。そこには新しい命が生まれていると信じられていることから、「よみがえりの聖地」ともいわれているのです。
異界に赴いた魂が生き延びて、命は流転するという壮大な思想が、熊野の自然に宿っている、そんな神秘を感じた旅でした。
2024年9月18日 (水)
今夏の旅は熊野路へ⑴ 熊野三山で神話の神々に触れる
今夏は以前から憧れていた熊野路を訪れました。世界遺産の熊野三山を巡り、たくさんの神話の神々に触れながら、熊野の自然がつくりだした造形を楽しみました。
熊野三山の本宮大社は日本全国熊野神社の総本山です。158段の階段を上った高所にあって、社殿は他の2社と比べ、桧皮葺の落着いた雰囲気です。
主祭神の須佐之男命を始めとする十二柱の神々が祀られており、その厳かな雰囲気から格式の高さが感じられました。
ものすごい暑さの中、本宮大社の旧社地 大斎原にも行ってきました。
2000年前にここに神々が降りたたれ、それが熊野信仰の始まりとなったという聖地です。明治時代に洪水で社殿が消失し、今では日本一という大きさの大鳥居が田んぼの向こうに立っていて、昔を偲ばせていました。
次に向かったのが那智大社です。神武天皇が海上から山中にある滝を見つけ、そこに社殿を築いたとか。
この滝が那智の滝で、水柱は落差133mの日本一の名瀑です。山と水と岩が一体化した、まさに自然信仰の最たるものと思いました。
三重塔とその横に那智の滝が見える風景が美しかったです。
那智大社には八咫烏(やたがらす)が祀られていて、正面にはその銅像もありました。
八咫烏は熊野の神様のお使いである、三本足の烏で、日本サッカー協会のシンボルマークになっています。それにしても熊野でこんなにも烏が尊ばれていたとは、驚きでした。
また宝物殿には豊臣秀長が奉納したという神像がズラリと展示されていて、その顔立ちが全員男性なのです。天照大神やいざなみの命は女性であるはずなのに、これは変と思って学芸員の方に訊いたら、それは「謎」とのことでした。
ご神木の樟(右)は、幹が空洞化していて通り抜けることができるのも、ちょっと面白い体験でした。
隣の青岸渡寺は神仏習合の霊場で、現在も熊野修験道の拠点です。
NHKの大河ドラマ「光る君へ」に登場した花山天皇もここに参詣されたとのことでした。どのような思いだったのかと、当時の情景に思いを馳せました。
ここから那智の滝までの熊野古道が意外に険しかったです。足を取られないように、恐る恐る歩いたことが思い出されます。
もう一つの速玉大社は熊野川の河口付近にある神社(上)で、華やかな朱塗りの社殿が見事でした。
2024年9月 8日 (日)
より以前の記事一覧
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