ファッションビジネス

2024年1月27日 (土)

サステナビリティのスタートラインは法令遵守が基盤

 「日本はファッション製品に対する化学物質規制は世界でもっとも緩い国」と知り、愕然としました。日本の規制の厳しさは世界最高峰と思い込んでいました。現実はその逆だったというのです。
 先般、そんなサステナビリティの基盤となる化学物質管理に関するセミナーを拝聴しました。登壇したのは、一般財団法人カケンテストセンター 国際部グローバルテクニカルサポート室長で繊維製品品質管理士・ZDHC認定トレーニングプロバイダーの志賀 聖氏です。

1_20240127144501   ちなみにZDHCとは、Zero Discharge of Hazardous Chemicalsの略で、繊維・皮革産業において有害物質の排出をゼロにするための活動をしている非営利団体です。

 EUでは、2022年3月に持続可能な循環型繊維製品戦略を公表し、日本でも環境省が「環境表示ガイドライン」を制定して、その遵守を奨励しています。しかし日本ではサプライチェーンにおける化学物質管理が十分に実施されていないとも言われています。
 志賀氏は「サステナビリティのスタートライン~グローバル化の為の製品コンプライアンスとは~」と題して講演。各国の化学物質規制を遵守するための管理システムの構築という観点からみたサステナビリティの考え方について解説しました。

 冒頭、氏は「環境配慮型製品の特長として最初に思いつく言葉は何か?」と問いかけました。圧倒的に多かったのが「リサイクル」でした。この言葉を確認した上で、日本の繊維産業界でサステナビリティと無関係と思われているテーマ、「化学物質管理」をメインに話したいと述べて、セミナーをスタートさせました。
 まず、海外に進出する先で人気のある国の繊維製品に適用される法令を紹介しました。日本のファッションを世界に輸出するためには法令に適合した製品を生産する必要があるからです。
 ファッション製品の法令コンプライアンスでは日本には表示法として家庭用品品質表示法、中国はGB/T5296.4、台湾服飾表示基準など、また安全性に関する化学物質規制では日本の有害家庭用品規制法、中国GB184017やGB30701、韓国KCマーク制度、EUはREACH規制、POPs規制などがあります
 とはいえ法令遵守すなわちサステナビリティではないことに釘を刺しました。

 1_20240125112101 次に、日本とEUのファッション製品に対する化学物質規制の違いを説明。日本ではホルムアルデヒド、殺生物剤、難燃剤、有機スズ化合物、アゾ染料の5つの物質群が規制されています。しかしEUではこの5つに加えて、ノニルフェノールエトキシレート、フタル酸 多環芳香族炭化水素、6価クロムなど17種類もの化学物質が規制されているのです。
 氏は、日本向け製品のサプライチェーンとEU向けのサプライチェーン管理では安全と環境のための化学物質管理に大きな差が開いていると指摘しました。日本では日本の規制の厳しさは世界最高峰と思い込んでいる人が多数います。しかし現実は正反対で、日本の化学物質規制は世界中で最高に緩い! と言っても過言ではないといいます。
 アジア圏の国々は緩いと思われるかもしれません。しかし日本は管理している化学物質の数が圧倒的に少なく、消費者や環境にやさしい製品を生産する基盤においてすでにEUや諸外国から大差がつけられていることを自覚しなければならないと警告しました。
 日本のファッションブランドが海外で販売する製品の法令コンプライアンスに関する相談でもっとも多いのは、品質表示に関する依頼であって、化学物質に関する問い合わせはほぼないとも。
 日本では日本以外の国の化学物質規制は無視されている状況があり、自社の化学物質管理は、サステナビリティの基盤であることをもう一度考え直すべきと問題提起しました。

 さらに製品コンプライアンスのためのRSL(Restricted Substance List=制限物質リスト)に触れ、これは化学物質管理に欠かせないツールと強調。ブランドを構築し、消費者の信頼を獲得すると同時に、有害な化学物質をサプライチェーンで排除することにより、消費者の健康と環境を守るために、世界各国の製品中の特定化学物質を禁止する規制要件と基準を遵守すべきと語気を強めました。
 最近では欧州で有機フッ素加工物(PHAS)規制が提出され、発がん性があり、分解しにくく残留性があることから使用不可になる可能性が高いことも。

 最後に、サステナビリティのスタートラインに立つために、不可欠なのは日本の法令ばかりでなく、世界の法令を見て、確実に遵守する体制をつくること、そしてそこからさらにそれを上回る環境管理をやっていくことこそサステナビリティへの道と言及。まずは法令の遵守、そこを超えることがサステナビリティと語って締めました。

 ビジネスをグローバルに進める際、避けて通ることのできない課題を取り上げた興味深いセミナーでした。

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2024年1月26日 (金)

フランスで「シーイン」の工場見学招待ツアーに賛否両論

 「シーイン(SHEIN)」は中国発の急成長する越境ECであり、そのプチプラ×高見えファッションが若者中心に世界的な人気を博しています。

Img_65401jpg_20240126235901     シーインの東京・原宿キャットストリートにあるショールーム

 しかしながら、シーインは工場で働く従業員の不安定な労働条件と非常に低い賃金に関する批判を受けていますし、過剰消費と資源の浪費を促進するファスト・ファッションに対する非難も浴びています。著作権や商標権の侵害など、多くのトラブルも報告されており、最近では「ユニクロ」による模倣品提訴など、法的な問題も浮上しています。

 フランスでは、昨秋にシーインが女性インフルエンサーを中国の工場見学ツアーに招待したキャンペーンが賛否を呼び起こしました。シーインはこの招待を通じて、工場での労働条件が世間で言われているほど酷くないことを示し、イメージアップを図ろうとしたと考えられています。
 一部のインフルエンサーは提案を受け入れ、自ら目で確かめるために中国の工場を訪れました。一方で、他のインフルエンサーは招待を拒否し、これを単なる売名行為として非難しました。視察に参加した女性インフルエンサーの評価も様々で、驚きを感じた者もいれば、見せられたものの信憑性に疑念を抱く者もいたといいます。
 ネットユーザーの意見も分かれ、現場の実態を示し、顧客を安心させる手段と捉える人もいれば、労働条件やファスト・ファッションの環境への影響に焦点を当てるべきだと見る人もいるとのこと。一部では、シーインが企画した視察が実際の労働環境を正確に代表していない可能性や、訪問を受けて一時的な改善が行われ、実情とは異なる印象を与えている可能性も指摘されています。
 私たちが考えなければならないことはインフルエンサーと消費者の倫理的な問題です。シーインを支持すべきか、それともより社会的・環境的に責任を持つブランドを支持すべきかについては、個々の信念や優先順位に基づいて選択する必要があります。
 何よりも自分の価値観に忠実であることが、今回のような難しい問題に対処する上での一つの指針となるのではないでしょうか。

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2024年1月25日 (木)

齊藤孝浩氏講演 「今、世界では何が起こっているのか?」

 先日、フルカイテン特別オンラインセミナーにファッション流通の在庫最適化コンサルタントとして著名なディマンドワークス代表 齊藤孝浩氏が登壇しました。
  「今、世界では何が起こっているのか?アパレルTOP10に見る店舗とECの未来図」と題して、Photo_20240122184101 グローバルトップ10企業の業績や動向を解説、これからのアパレルマーケットとの向き合い方のヒントを探る興味深い内容で、下記概要をまとめてみました。

 冒頭、2022年度世界アパレル専門店売上ランキング TOP10から、前年との売上比がダントツに高いのが「インディテックス」、また絶好調は「ルルレモン」、堅調は「ネクスト」、回復・好調とみられるのが「ファーストリテイリング」、「プライマーク」、「しまむら」、苦戦は「H&M」、「ギャップ」、「ヴィクトリアズシークレット」と指摘。
 トピック1は、店舗もECも伸ばす企業がある一方、店舗は回復したもののECが減少した企業があることです。氏は、売上を伸ばしている企業は店舗もECもグローバルに対応しており、越境してビジネスを拡大できるECという武器が好調・不振の明暗を分けたと分析。
小売業とECでは費用の掛けどころが異なり、小売業は家賃と人件費、ECは広告宣伝費と物流費と前置きした上で、トップ10企業のECの取り組みを次のように語られました。
 ECに取り組んでいないのが「プライマーク」です。低価格アパレルチェーンにとって宅配送料が割に合わないからです。オンラインサイトはあっても通販は行わず、商品紹介とどの店に行けば手に入るかの在庫情報の提供に徹しています。しまむらも同様で、ほとんどECをやらず、店頭受取です。
 とはいえ多くの企業がクリック&コレクト(BOPIS) などOMOを標準装備しています。これを徹底しているのが「インディテックス」で、世界全店舗とECの在庫一元化を完了しました。店舗のある94ヵ国から世界213か国に販売できる仕組みを整え、オンライン注文も店舗在庫を引き当て出荷可能、オンライン注文2時間で店舗での受取り可能で、このために店舗を大型化しているといいます。 
 独特なのが英国の「ネクスト」で、自社が構築したプラットフォームを使用して、他社の在庫も運送する取り組みを行っています。自社OMOを実現し、他社商品のECにおける運営を代行。自社商品および他社商品に対しては、クリック&コレクトのサービスを提供し、アマゾンハブカウンタ―とも提携して、高い営業利益率をあげています。

 トピック2は、販売期間の短いアパレルビジネスで、損益のカギを握るのは何か?です。
 従来のアパレルビジネスは需要予測に基づき見込み生産し、つくった商品を販売するために、安い人件費を求めて、産地は中国から東南アジアへと遠方になり、その結果リードタイムが長くなり、在庫リスクも拡大するというものでした。
 しかし「インディテックス」の「ザラ」は、これとは異なる需要連動生産を行っています。実需要を見てからつくり足す、つまり必要な分だけつくり、売れるものをつくり足すビジネスです。シーズン商品の3週分だけの商品を生産し、販売。毎週、顧客の反応に応じて改良商品を3週単位で追加生産し、むだな在庫をつくりません。プロパー消化率は85~88%といいます。
売上ランキング2位の「H&M」は売上高が伸びているものの、利益率減少に歯止めがかからず、営業利益は2015年でピークアウト、オンライン対応にも乗り遅れ、苦戦しています。
 こうした中、トップ3を追う急成長企業が台頭しています。その一つが「ルルレモン」です。カナダ本社、米国をマーケットに伸びているアクティブウェアブランドで、EC比率が高い。コミュニティストア型で店舗では無料ヨガ教室・ランニング教室を提供し、トレーナーやアンバサダーを中心にローカル・コミュニティを形成。オンラインでコンテンツを配信し、パンデミック下、顧客が自宅でエクササイズする巣ごもり需要が拡大し、TOP10ランキング入りしました。
 もう一つが「シーイン」です。非公開企業ながらクローバルトップ3の規模に急拡大中。世界の工場、中国からの越境ECで、「ザラ」よりも速く、「プライマーク」よりも安い。素材から製品まですべてが揃う産地、広州に拠点を置き、深?というアジアのシリコンバレーでオンラインの技術を駆使して、世界の消費者に売り込み、店舗を持たず産地から直送。短納、少量生産を実現しています。
 これまでのグローバルチェーンとは異なる業態で、今後アパレルのゲームチェンジャーとなるのではないか、と言及し、セミナーを結びました。

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2024年1月23日 (火)

2030に向けたファッションビジネスと人材に関する提言 ⑵

 「2030に向けたファッションビジネスと人材に関する提言」をテーマにしたシンポジウムで、基調講演に続くパネルディスカッションが実施されました。パネリストとしてエコテックジャパン(株)取締役会長 近藤 繁樹 氏、YUIMA NAKAZATO 代表・デザイナー 中里 唯馬 氏、学校法人上田学園 理事・上田安子服飾専門学校 校長 田島 等 氏が登壇。日本のアパレル産業が抱える人材育成などの課題について議論が交わされました。

Img_01651_20240120191001       シンポジウムの会場となった文化学園前の風景

 近藤 氏は、「世界中の工場数千社を回り、日本の700~800社を監査しました。2030年に向けて、人権や環境、持続可能性に関する規約や規定が標準装備になっていますが、日本では社内規定がなく、いくら『やっている』と言っても証拠はありません。整備が進んでいないのが実状です」と警鐘を鳴らしました。
 中里氏は、「2016年からオートクチュールという1点ものの世界でコレクションを発表しています。作る人と着る人の距離が近いので、クリエイティブな行為で着る人が喜んでくれることがデザイナーとしてシンプルにうれしいです。昨年、アフリカのケニアに行き、大量廃棄された古着の山を目にして、このままでは明らかに継続していかないことを痛感しました。人間の価値観が変化しているのに、前時代のそれが続いています。大量生産以外の在り方に目を向けるべきです。そのためには商品価値を高めていくことが重要で、新しいラグジュアリーの定義が求められています。そこには倫理に価値があると思っています。つまり一部の特権的な人ではない多くの人が享受できる新しい価値です。これを日本から発信する、このための人材が必要です」と。
 田島氏は、「国内は厳しい。私立大学の半数超で、昨春の入学者数が定員割れし、その3分の1が赤字です。それでも日本の教育レベルは高く、我が校では世界を相手にした人材育成を行っています。世界を視野に現状を変えることができれば未来は明るいのではないでしょうか」と話しました。

 締めの一言として。
 近藤氏は、「循環型社会は避けては通れない課題で、この問題に一番後れているのが日本です。SDGsをどう展開していくか、また3D CAD人材を育成していくことが大事」と指摘。
 中里氏は、「大量生産からの脱却が必要で、これを救うのがデジタル化です。企業が出資するなどして無料で学べる制度をつくることも重要」と提案。
 田島氏は、「企業が教育側に対して、もっと注文を付けて欲しい。人材への投資が少ない」と。

 最後に、質疑応答があり、中里氏が日本文化、とくに着物に内包されている哲学を次世代に継承していくことの重要性をコメントされたのが印象的でした。

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2024年1月22日 (月)

2030に向けたファッションビジネスと人材に関する提言 ⑴

 ファッションビジネス学会は昨年11月18日、学校法人文化学園にて30周年記念全国大会を開きました。
Fb  テーマは競争力のあるファッションビジネス創出に向けた「バリューチェンジ~知の新機軸」です。第1部は口頭とポスター展示による53の研究発表で、第2部が「2030に向けたファッションビジネスと人材に関する提言」と題したシンポジウムでした。
 シンポジウムでは基調講演とパネル ディスカッションが行われ、ファッションビジネス学会専務理事 福永成明氏が司会進行を務めました。

 基調講演に登壇したのは法政大学大学院政策創造研究科教授 ファッションビジネス学会会長代行・2030提言策定委員長、岡本 義行 氏。策定中の2030年への提言を紹介し、日本のアパレル産業が抱える人材育成などの課題について語られました。

 まず、日本のアパレル業界の現状について。
 経産省データによると1990年に15兆円を超えていた国内アパレル市場規模は、2020年に8.6兆円に縮小しました。人口減少や古着流通形態、オンライン会議定着、実質所得の低下、生活様式の多様化や簡略化などが要因といいます。輸入浸透率も2021年98.2%に達し、国内製造は3%未満で、国内市場は輸入品に席巻されています。その原因は安価な賃金の海外生産へ移行したことにあると明言。それはコストが安くともリスクの大きい方向だったのです。
 日本の繊維産業概況を見ると、機械や生地は競争力があって成長していますが、衣料品は伸びていなくて横ばいです。「ユニクロ」を除けば、輸入は多いけれど輸出が極端に少なく、日本の製品輸出はフランス、イタリア、ドイツと比べ桁違いに低い状況です。
 そこで当面の課題は衣料品競争力をどう作っていくかです。このために日本の「強み」―― 生産技術や全国に広がる産地、関連機械産業の強さ、高水準の巨大消費市場、海外市場に向けた商社などのインフラの存在、ファッションと装いの伝統 ―― を確認して活かすことが重要といいます。

 次に、日本の衣料品産業はなぜ競争力に欠けるのか? について。そこには需要と供給の不均衡と、日本特有の産業構造があるといいます。日本のアパレルは、問屋としての特性が強く、リスク回避のために製造機能、すなわち工場を保有せず、代わりに製造を海外に委託しています。例えば「ザラ」などは本社に近いところで生産していますし、最近は「オンワード」も工場を持つようになりましたが、日本ではこれまでブランドのコアとなる生産技術を重視してきませんでした。この点を迅速に解決する必要があると語気を強めました。 

 さらに、消費市場からの情報を処理する体制づくりも課題と指摘。「ザラ」を例に、地域にリサーチャーを配置して、需要変化を素早く吸い上げ処理する体系を確立し、次の生産に活用している解説しました。手元にある工場で生産技術を蓄積し、デジタル化に基づく問題解決のためのPLM(商品ライフサイクルマネジメント = 製品の企画・生産・販売・廃棄までの一連の工程における情報を管理)を導入し、生産と企画の間の調整をいち早く行えるシステムが求められていると強調。

 最後に、モノより組織をデザインできる人材が必要とされていることなど、きめ細かい人材育成の重要性に言及して講演を結びました。

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2024年1月20日 (土)

防災のためのファッション&グッズ ~防災グッズ大賞から~

 日本は自然災害が多い国ランキングで世界一です。マグニチュード6以上の地震の 約 2 割が、日本周辺で発生しています。このお正月には能登半島が震度7の地震に襲われ、激甚災害に指定される大災害となりました。
 災害大国日本だからこそ、私たち一人ひとりが基礎的な防災力を持つべきと、私が所属するユニバーサルファッション協会(UNIFA)では活動の一つとして、ユニバーサルファッションのフェーズフリーである「ユニバーサル フェーズフリー ウエア」をテーマに研究しています。ちなみにフェーズフリーとは災害時や平常時に関わらず、どの様な状況でも私たちの命や生活を守るデザインのことです。
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 先般、UNIFAが準会員となっている国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD) 主催・UNIFA共催により「防災のためのファッション&グッズ ~防災グッズ大賞から~」と題したセミナーを開催しました。講師にお迎えしたのは一般社団法人 災害防止研究所 代表理事 吉田 明生氏です。
Goods20231photo  災害防止研究所は災害防止の啓発・普及活動を通じて、安全安心な社会の実現に貢献している団体で、2019年に「防災グッズ大賞」を創設し、以来毎年、数多くの企業から応募を得て、防災グッズ大賞と各賞を選出するとともに、「防災グッズ大賞展」を開いています。(このブログ2023.10.24付け参照)
 本セミナーではこのイベントを基に、平常時からそのまま災害時にも安心・安全に用いることができるファッション&グッズはどうあるべきかが考察されました。 

 まず、「ファッションと防災」の観点から、優れた機能性と由緒がある衣服として次の2つの事例を解説。
 一つが「コックコート」です。Photo_20240118111101 フランス国立の料理学校では教育の最初に教えられるのが調理服で、ナポレオンジャケットから発展して来た衣服といいます。その特徴は調理時の事故を考慮したデザインです。燃えにくく、吸水性、速乾性に優れた素材を使用し、前身頃は二重仕立てで火や熱湯に強い。熱い鍋をつかめるように袖丈は指先まである長い丈で、布ボタンをほどけば、包帯にも使用できる仕様になっています。

 もう一つが「トレンチコート」です。その起源は第一次世界大戦のイギリス軍の、寒冷な欧州での戦いに対応する防水型の軍用コートで、「トレンチ(塹壕)」の称は、このコートが泥濘地での塹壕戦で耐候性を発揮したことによるといいます。平時のファッションとして用いられるようになってからも、軍服としての名残を多く残しているコートです。

 次に、「防災グッズ大賞」について、歴代の受賞企業と製品の中から繊維ファッション関連のものを取り上げ紹介しました。

大作商事(株)ネッククーラー、マジックール
 熱中症予防に効果的。水を含ませるだけで、抗菌・防臭性ビーズ配合の特殊ポリマーにより頸動脈を流れる血液を冷やし、冷感が20時間以上持続するといいます。

 無臭元工業(株)ニオイも安心の吸水パンツ
 アクティブシニア層向けに汗や尿の臭いの抑制に効果がある吸水パンツで、消臭機能が洗濯で回復するという、世界初の機能が注目されます。

(株)スギタ 全身反射ポンチョ
 捜索隊から発見されやすいように、素材全体に反射材のドットプリントが施されていて、夜間に極めて目立ちやすい仕様になっています。耐水度が通常の商品の100倍程度あり、かつ外気の寒さを20度近く遮断できる遮熱効果にも優れています。

(株)ワークマン プレミアム防水防寒コート
プロの職人の作業着を進化させた高機能、高品質、低価格のコートで、耐水圧は20,000mm、透湿度は40,000g/㎡/24hの最高レベルの基準をクリアしているといいます。

 (株)ウイード 耐切創性能に特化した手袋
 縫い目のない一体型成形の、操作性に優れた手袋で、切り傷に強く、世界一厳しい欧州の耐切創規格に適合している。温度が250度で15秒以内なら耐えられるといいます。

パナソニック・ライティング・デバイス(株)耐切創手袋(ストロングンテ)
 ダイヤに次いで硬いタングステン繊維を使用した、切り傷や擦れに強く、しなやかで手になじむ。ガーデニングやDIY、アウトドア、工作・カッター作業、災害時の備えにもおすすめの手袋といいます。

(株)Fine Track 撥水アンダーウエア
 登山の経験を生かして製品化された下着で、独自の「撥水」技術により、かいた汗は瞬時に肌から離れ、肌をドライにキープする。抗菌防臭性があり、汗冷えを抑えて身体を保護します。

  この他、いろいろ。

 氏は、昨今の防災非常用品の重要なポイントは、「日常の延長で備える」ことといいます。防災グッズ大賞の選定では、「防災グッズは、日々の生活の中で使われ、役に立つものでなければ、決して災害時に使われることがない」という観点から、「毎日、便利に楽しく使う」という視点で選出されているとのことでした。 

 最後に、防災の啓蒙・普及活動を取り上げ、危機管理を習慣化し、ライフスタイルとして定着するまで継続することが重要、と語って結ばれました。

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2024年1月14日 (日)

日本アパレル・ファッション産業協会新年会 約500名来場

 日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC) が1月11日、都心のホテルで開催した新年会に行ってきました。
 来場者は約500名を数え、久しぶりの盛大なパーティでした。
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 冒頭、鈴木恒則理事長が挨拶し、能登半島地震により被災された方々へのお見舞いと地域の復旧・復興への言葉を述べられ、本年のJAFIC事業活動の主要ポイントとして下記3つを挙げました。
1.サステナビリティの推進
2.DX (デジタルトランスフォーメーション)の推進
3.会員企業間の連携強化と情報共有の場の拡充
  とくに1. と2. には力を入れて取り組んでいくといいます。
 次に野田聖子繊維・ファッション議員連盟会長、伊吹英明経済産業省製造産業局長、小池百合子都知事から年頭の所感が語られ、活発な交流が行われました。
 気後れしていた私も、思いがけない方々にお会いするなどして、やっぱり来てよかったと思った、明るさの漂う新年の集いでした。

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2023年12月29日 (金)

「親密なからみ合い・フィンランドの現代ファッション」展 ⑵

  「親密なからみ合い・フィンランドの現代ファッション」展ではトークイベントも開かれました。登壇されたのは、キュレーターのアンナマリ・ヴァンスカ教授、ナタリア・サルマカリ博士研究員(共にアールト大学)、スサンナ・パーソネン教授(トゥルク大学)、アンナ=マリア・ウィルヤネン所長の4名です。Img_98871
 研究を始めたのは2019年で、その後コロナ禍となり、それまでの研究成果をまとめた書籍『INTIMACY』の出版に注力。デジタル化が進んだことで、これまで理解が十分ではなかったデジタルファッションが注目されるようになり、デジタルメディアやプラットフォームが日々の生活のインフラの一つとして重視されるようになったといいます。しかし良いことばかりではなく、ITデータの漏洩が多くなっていることを憂えているとか。とくに小規模ブランドほどこの問題が発生しやすいことなどを指摘していました。これを克服しないとサステナブルではありえないとも。
 また衣服製造は伝統的なやり方が主ですので、デジタル化といってもなかなか対応できない大問題があるといいます。最近ようやくデジタルファッションを学べる大学が少しずつ増えてきて、アールト大学では来年からデジタルファッション科が始動するとのことでした。

 最後にこの先、2050年に、ファッションはどうなっていると思うか、という質問があり、その答えが大変興味深かったので、ご紹介します。
― 量産はAIに任せ、人間の手作業の価値が高まり、オートクチュールを求める人の数が増える。
― ファッション業界はグローバル化する。かつて日本のヨージ・ヤマモトやレイ・カワクボが出てきた時のように。地球規模で資本や情報のやり取りが行われ多極化していく。
― これまでパリ中心だったファッションに逆の動きが現れてくる。プロではない人でもファッションの発信者になるだろう。これにより安価な労働力の問題も解決されるのではないか。
― 大量生産がなくなっていき、カスタマイズされて、その人が欲しいと思うものがつくられるようになる。ショップはギャラリーになり、そこで発注したものが届けられる仕組みになっていく。

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2023年12月28日 (木)

「親密なからみ合い・フィンランドの現代ファッション」展 ⑴

 東京・目黒区美術館で先月下旬からこの3日まで、フィンランドセンター主催の展覧会「親密なからみ合い・フィンランドの現代ファッション」が開催されました。
 本展は、ヘルシンキのデザインミュージアムで行われた「Intimacy」(21~22年)の一部を初めて日本で公開するもので、特に20年以降に制作された作品を中心に紹介しています。
 キュレーションを担当したのは、フィンランドのアールト大学のアンナマリ・バンスカ教授とナタリア・サルマカリ博士研究員です。          「Intimacy」展は、フィンランドの戦略研究評議会の依頼で、高度なテクノロジー化によるカルチャーへの影響を研究するため、アールト大学、トゥルク大学、タンペレ大学、オーボアカデミーという4つの大学からメディア、法律、デザイン関係の研究者たちが集まって開催されたといいます。そのモノグラフ(研究書・論文)として出版されたのが『Intimacy - Embodied knowledge, creative work and digitalization in contemporary Finnish fashion (現代のフィンランドファッションにおける身体化された知識、創造的な仕事、デジタル化) 』です。
Intimacy  本書は現代フィンランドのファッションと国際的なファッション研究についての本であり、アイデンティティを表現するツールとしてのファッション、ファッションデザイナー自身の身体経験が作品に与える意味、着用者の身体機能をデータ化するウェアラブル技術がファッションに与える貢献など、身体とファッションの親密な関係を多様な視点から考察しています。
 この研究の基になっているのは、2017年にマッティ・リーマタイネンさんが開発した組み立て可能なガーメント構築キット、「セルフアッセンブリー(Self-Assembly)」です。服はアルゴリズムによって生成されたパターンをレーザーカットで裁断し、手で組み立てることができる特殊な縫い目を使用して形づくられます。

Img_98501  上は、彼の作品で、コンピューターに服をデザイン・製造させる試みです。衣服のデザインを数学とコンピュータサイエンスに融合させ、人間の手を借りない衣服のデザインと製造の可能性を追求しています。

 ここではもうミシンを使用せずに、どんな機械や道具もなしで完全に組み立てることができます。組み立てには衣類製造のための事前のスキルや能力は必要ありません。すべての作業段階は同梱の組み立てマニュアルで説明されているといいます。部品は互いに簡単に取り外せて、製品を分解して再組み立てすることができ、新しい色の組み合わせで混ぜ合わせることもできるという、これまでの服の製造方法を一変させる、まさに革命的な手法!なのです。

Img_98561  上は、出版された本の表紙にも採用された、ボディビルディングの筋肉からインスパイアされたというマッスルスーツです。筋肉の解剖図をグラフィックのパターンで表現した「レーヴィ・イカヘイモ」の作品で、カシミアとウールのリサイクル糸で編んだもの。

Img_98651  衣服とぬいぐるみを融合させた、ユーモラスな「ヴェンラ・エロンサロ」の作品です。

Img_98621  フィンランドといえば忘れてはならない、マリメッコもありました。

Img_98671_20231231180101  さらに同大学を卒業して活躍しているファッションデザイナーたちの創作活動から生み出された約15点の洋服と映像がインスタレーションされていました。

 展覧会は2020年代のフィンランドの衣類やアクセサリーデザインに関する理解を更新し、着用する服と体との親密な関係を探求する画期的なものでした。デザイナーの仕事におけるデジタル化とデータ化の影響を強調し、ファッションの製造、流通、消費のメカニズムに着目するとともに、ファッションのジェンダーやセクシュアリティ、包括性の問題にも焦点が当てられていました。またほとんどのデザイナーがエコロジカルな観点から出発していて、再利用された素材やアップサイクルされた素材、ファブリックの無駄を最小限に抑えるゼロ・ウェイスト・デザインなどの手法を採用していたことも印象に残りました。
 フィンランドといえば人口520万人の小国です。それがこんなにもサステナブルなデジタルファッションを進化させていたとは!日本ももう負けてはいられませんね。

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2023年12月 6日 (水)

「カラートレンドと社会環境の関係」 人気色と時代の流れ

 先般、一般社団法人日本流行色協会(JAFCA)は創立70周年を迎えて、「『感性価値』が描く未来」をテーマに記念講演会を開催しました。
 AI(人工知能)を活用した感性価値の定量化の試みや生成AI時代の色彩表現など、デザイナーにとって大変興味深い講演でした。

 中でも私が着目したのが、文化学園大学教授 JAFCA理事 大関 徹氏の講演です。「カラートレンドと社会環境の関係」をテーマに語られました。
 氏はまず、JAFCAの色彩調査から1945年から2023年までの主な人気色と時代の流れを紹介しました。
 1960年代から70年代にかけては所有消費時代で、ビビッドカラーやパステルカラーといった清色が並びます。とはいえものすごく売れたわけではなく、服の場合「白・黒・紺・茶・鼠」が7~8割を占めています。1974年のオイルショック以降は節約時代で、注目色はブラウンやベージュ、オリーブなどアースカラーといわれる濁色になります。1980年代には白黒のモノトーンが大流行。それに追随するように、自動車や家電もまっ黒になったといいます。80年代後半は飽食の時代でバブル経済真っ盛りとあってハイテクカラーの清色が出ます。90年代、閉塞時代に入ると濁色のエコロジーカラーが登場し、世紀末へ向けてミニマルな清色のグローバル社会へつながっていきます。リーマンショックを経て濁色が復活、「白・黒・紺・茶・鼠」の定番色は、2014年頃「ノームコア(究極の普通)」という新しい言葉が付けられ、以後ナチュラルカラーやシンプルカラーとともに人気色として注目されています。
 主な人気色を時系列順にみると、GDP(国内総生産)と連動し、清色(澄んだ色)と濁色の人気が交互に繰り返されていることが分かったといいます。

Img_99351  現在はGDPが低迷している濁色の時代です。ファッションの街、原宿・竹下通りを行く若者たちの装いもそんな色ばかりが目立っています。 

 まとめますと、清色時代には白やパステルカラーといった爽やかな色、多色、高彩度の色が出現。人工素材や金属が登場し、積極性や技術、未来感が話題になります。
 濁色時代は不景気の時代です。着回しのきく低彩度、保守の普段色が中心になり、内省的で癒しや温もり感などが関心を集めます。好まれるイメージは安心、落ち着き、ウォーム、マイルド、ナチュラル、過去、文化です。
 またデパートでの売れ行きカラー調査も開示。1990-2002年のウィメンズのベストは、トップから黒、ベージュ、紺など、「白・黒・紺・茶・鼠」が75%。次がパステルカラーと赤のグループで20%、さらにビビッドカラーグループ、とくにオレンジと緑と紫が5%。
 2010-2016年では「白・黒・紺・茶・鼠」の割合は75%で変わっていませんが、紺がトップで黒、白と順番が少し変化。20%のグループでは赤系が落ち、代わってブルー系が上昇。5%のグループではビビッドでも紫が消えるなどの変化がみられたといいます。
 昨今、ブルー系やカーキなどのグリーン系が上がっているのは、エコロジーの影響とみられ、サステナブル/SDGsへつながっているといいます。当初、エコロジーカラーはベージュ系が多かったのですが、グリーン系へ変わっていったとも。

 次に本題の「カラートレンドと社会環境の関係」です。
 近年の生活意識変化を促す諸要素を列挙し、下記4つのグループに分類し、カラーインスピレーションの事例をプレゼンテーションしました。
①自然環境の変化 — 地球・大地、自然、エコフレンドリー
 水よりは空の色、青が多い。あまりビビッドでない、心地よい色。
②社会環境の変化 — 多様性、共有・共存、協調する
 「人」「文化」への関わり。ダイバーシティやジェンダーレス。性差を感じさせないグレイッシュなカラー。
③科学技術の変化 — デジタル、通信、VR/AR、メタバース、バイオ
 光の色と実素材のレイヤー、デジタルとアナログの融合色、境界のない感覚。
④物(対象物) の変化 — サステナビリティ、循環性、再生、アップサイクル
 リサイクルの最後の色はダークグレー。ブラウン系やダークな赤、混ざりものや素材感を伴う色。

 今はサステナビリティへの関心が非常に強い、と述べて結びました。
 たくさんの図表やイメージ画像を使っての解説は大変分かりやすく、さすが色彩の専門家、学びの多い講演でした。

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