文化・芸術

2024年7月 5日 (金)

「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展」

 カルティエが日本に最初のブティックを開いて50年を記念する、「カルティエと日本の半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 — 美と芸術をめぐる対話」が、東京国立博物館 表慶館で開催されています。同ブランドと日本との絆、さらに「カルティエ現代美術財団」とゆかりのある日本人アーティストによる現代アート作品が結集する展覧会です。

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 エントランスでまず目に飛び込んでくるのが、上の写真の現代作家の澁谷 翔による『日本五十空景』です。歌川広重の『東海道五十三次之内』にオマージュを捧げて、澁谷は35日間で日本全国47都道府県を旅し、地元新聞の一面に各地の空の景色を描いて50点の連作を制作しました。江戸時代と共通する空の色を通じて過ぎゆく時間を投影し、カルティエの絶えず進化する歴史を象徴する、現代版浮世絵に仕上げたという作品です。

 右側の展示室では、日本のモチーフにインスパイアされたジャポニズムのムードあふれる「カルティエコレクション」が展示されています。
 カルティエ創設者であるルイ・カルティエは日本のオブジェや書物のコレクターでした。メゾンのデザイナーたちはそのエッセンスを共有し、伝統的な建築や絵画、オブジェなどから着想を得たジュエリーを次々と生み出していったのですね。
 Img_80641  「トンボ」のブローチです。眼球はルビー。この他にも動植物のモチーフがたくさん出ています。

Img_80721  「日本風の結び目」 ブローチです。印籠もありました。
 Img_8080  髪飾りのコームです。
 
 カルティエコレクションの目玉となっている杉本博司の作品、『春日大社藤棚図屏風』です。
 Img_80891  藤の花をモチーフにした様々なジュエリーも飾られています。

 二階に上ると、メゾンを象徴する動物が登場しました。

Img_80941  写真は、ウィンザー公爵がイギリス王室の歴史を変えたといわれるウォリス・シンプソンに贈った伝説の「パンテールブローチ」です。豹はメゾンのシンボル以上の存在といいます。

Img_80911_20240628182401  1968年、メキシコの大女優、マリア・フェリックスのためにつくられたスネークのネックレスです。長さ57㎝、全身の連結構造に2473個のダイヤモンドがセットされているという、ジュエリーの歴史に残るユニークな作品です。

Img_81111  円形渡り廊下の壁面には、横尾忠則による日本人アーティストのポートレートがズラリ!

 建物の左側の展示室に入ると、カルティエ現代美術財団が関わった日本人アーティスト、村上隆やビートたけし、森山大道、荒木経惟、宮島達男、森村泰昌など、錚々たる顔ぶれの作品が並んでいます。

 Img_81161  三宅一生の『フライングソーサー』や『A-POC』やのインスタレーション。

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ビートたけしの『絵描き小僧』。

Img_81391  村上 隆の『DOB2020』フィギュア。

 他にも見どころ満載です。

 カルティエが日本文化と長年培ってきた絆が、今なお続いていることを示す展覧会で、日本人として誇らしく、その歴史と美を再確認する貴重な機会となりました。開催は7月28日までです。

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2024年7月 4日 (木)

「ミス ディオール展覧会 ある女性の物語」花や香り溢れて

 今、東京・六本木ミュージアムにて「ミス ディオール展覧会 ある女性の物語」が開催されています。完全予約制で、私も予約して見てきました。
 これは新しい“ミス ディオール パルファン”の誕生を記念する展覧会です。
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 上が、ディオール パフューム クリエイション ディレクター、フランシス・クルジャン氏が、新たに創作した現代のミス ディオールです。オリジナルのシプレーの香りにジャスミンのフルーティーで濃密な香りを加えてモダンにアレンジ、首元のボウ結びも印象的です。

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 “フローラル ガーデン”をイメージしたホールには、1949年に発表されたミス ディオール ドレスのレプリカが展示されています。ドレスのチュールを思わせる幻想的な空間で、ディオール氏が愛した花々の香りを楽しむことができました。
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 “ミス ディオール”のルーツから、アートやファッションとの関係まで、フレグランスの歴史をたどるユニークなプロムナードが設えられています。

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 世界初公開となる“レディトゥウェア”コレクションです。
 1967年9月11日(月)、メゾン初のレディトゥウェア コレクションとしてパリで発表された「ミス ディオール ライン」で、日常に気軽に取り入れられるエレガンスが提案されています。正面のドレス、水連の花模様で東洋的です。

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 写真は、“ミス ディオール”のスピリットを表現した国際的アーティストとのコラボレーション作品の展示コーナー“アーティストが描くディオールの世界”です。ルネ・グリュオーやマッツ・グスタフソンによるドローイングや水彩画に、日本的な美意識を感じて見入ってしまいました。

 クリスチャン・ディオールのアーカイブコレクションの展示ホールに入ります。
 
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 上は、クリスチャン・ディオールが“ミス ディオール”のフローラルな調香に着想を得て、1949年に制作したオートクチュールドレス「ミス ディオール」です。数千ものシルクフラワー刺繍で覆われたドレスは、「トロンプルイユ」ラインのキーピースとして話題となり、以降、メゾンの歴代クリエイティブ ディレクターに影響を与え続けているといいます。
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 過去、約3年間にわたってアーティスティック・ディレクターを務めたラフ・シモンズの作品や、現在のクリエイティブ ディレクターであるマリア・グラツィア・キウリによるオートクチュールドレスなどが展示され、夢のような美しい空間にうっとり、でした。

 花と香りいっぱいの本展、会期は7月15日までです。

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2024年6月19日 (水)

アーツ前橋「ここにいてもいい リトゥンアフターワーズ」展

 アーツ前橋で6月16日まで開催されていた「ここにいてもいい リトゥンアフターワーズ : 山縣良和と綴るファッション表現のかすかな糸口」展を見てきました。
 山縣良和さんは物語性のある実験的な表現の場としてコレクションを発表する「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のデザイナーであり、「coconogacco(ここのがっこう)」の代表でもあります。本展は、この山縣さんが美術館で開催した初の個展でした。これまでの集大成とともに、ファッション表現の「いま/ここ」を表わす新作がインスタレーションされていました。

 展覧会は一篇の物語の世界を探検でもしているかのように6つの章で構成され、夫々の章に思いがけない発見があって、好奇心をそそりました。とくに気になった作品を紹介します。

第0章 「バックヤード」
 ここは入ってすぐのフロアで、無料のエリアです。

20240601104410imgp55561   過去のコレクションで作成されたドローイング、絵画、写真、映像、書籍、布地などの作品や素材が展示されています。

第1章 「神々、魔女、物の怪」
 ブランドの原点ともいえる神話の世界です。
 20240601105304imgp55721  3.11からの再生を祈った《七福神》が階段の中央に据えられていました。福をかき集める熊手が表現されています。山縣さんの存在を世界に知らしめることになった記念的作品です。

20240601105444imgp55781  魔女や妖怪などダークなキャラクターが出現します。とはいえ怖くて悲しいイメージではなくて、ちょっとドジでチャーミング、日常的存在の魔女、誰もが何時でも魔女になりうるという想いを込めてつくった作品とか。

20240601105540imgp55831  焼け焦げたボロの山は、《After Wars》のコレクションからの1点です。東京都庭園美術館で行われたショーに登場したことが思い出されました。山縣さんは、「父親が長崎出身のせいか、戦争の記憶とも向き合うべきという感覚が昔からあります。」とおっしゃっています。

第2章 「集団と流行(はやり)」
 フリーマーケットのイメージから集団性が生み出すエネルギーに着目した展示で、同調性バイアスが強い日本社会の集団と流行の危険な側面を表現したコーナーです。

20240601110138imgp55901   新型コロナウイルスの感染爆発も流行(はやり病)です。布団に眠る人の姿は病に倒れた人を連想させました。

20240601110446imgp55961  2019年に上野の噴水広場で行われたコレクションからの作品《フローティング・ノマド》です。内戦で住む場所を失ったシリア難民を彷彿させるショーでした。「ここにいてもいい」というタイトルとは真逆の「ここにいられない」という世界の深刻な状況を写した作品です。

20240601110814imgp56031  記者会見の場面を表現したもの。スキャンダルが起こると一斉にヒステリックに集団で叩いてしまう、日本だからこそ起こりうる光景がとらえられています。

第3章 「孤立のトポス」
 コロナ禍で、東京を離れて長崎の島々で制作された《Isolated Memories(孤立した記憶)》がベースのインスタレーションです。
 20240601111056imgp56141  軽トラックには、狸や犬などの動物たちがいっぱい乗り込み、その後にも動物たちの長い行列が続く、印象的な展示でした。

 山縣さんは「ファッション表現は、自分自身を客観的に見つめ、研究しながら内なる自分像を外に出す行為です。このプロセスは、自分の自己イメージに関連する人間像をクリエーションやデザインを通じて変えていく作業でもあり、自分の変化しやすさを体験することにもなります。」と述べています。だからここではあえて人間ではない動物たちを主役にしたのですね。

第4章 「変容する日常」
 広い展示室には誰かが使い古した家財道具がたくさん持ち込まれていて、より暗い、不穏な気配が漂っているように思われました。

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 展示されていたのは、ウクライナやガザ、日本の能登の震災など、日常が簡単に崩れる現実を反映したもので、アーツ前橋に非日常の生活感を持ち込む試みで行われたといいます。近代の電化製品や空き家の食器棚、放置自転車などを設置し、リトゥンの考える「家」を仮設。そこにはナマハゲのようなキャラクターや人間のようで人間ではない存在がいます。13年前の東日本大震災で美術館が避難所になったエピソードもヒントに、非日常が日常に侵入するイメージを表現したとのことでした。

Img_78231  Img_78241 廃棄された布で仕立てた服です。
 マネキンが箒を手にゴミを集めているポーズも面白いです。

 右のカラフルなルックは、鳥取伝統の因幡の傘踊りで用いられる装飾的な傘をさしています。

 鳥取出身の山縣さんの故郷への想いが伝わってくるような作品です。

 

第5章 「ここにいてもいい」
 展覧会タイトルと同じ「ここに いても いい」は、これまでの章と異なり明るい雰囲気です。タイトルには「此処」や「個々」の意味が含まれ、自己の個性や生きる場所を肯定しようとしています。文字「い」と「こ」の形からは子供の成長を連想し、生活の中のパーソナルな出来事が重視されているようです。

 最近、女の子が誕生した山縣さん、仕事や育児で日常が忙しくなる中、社会問題への関心が薄れ、自身の目の前の出来事からリアルな作品を創作するようになったそうで、映像には子供を撮影した動画を使用し、家族の尊さや成長への願いを込めたといいます。 

Img_78031  中央にインスタレーションされていたのは、赤/白のギンガムチェックのドレスです。その上には、子どもの幸せや成長を祈る、日本古来の人形伝統文化「つるし雛」が飾られていました。

 家族を大事にしながら、ファッション表現の新たな物語を紡いでいく、山縣さんの決意が感じられたすばらしい展覧会でした。

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2024年6月16日 (日)

映画『うつろいの時をまとう』matohuの「美意識と手仕事

 去る5月15日、服飾ブランド 「matohu(まとふ)」のデザイナー、堀畑裕之氏と関口真希子氏のクリエーションを描いた三宅流監督の映画 『うつろいの時をまとう』の東京凱旋上映と、輪島塗・塗師の赤木明登氏 + 堀畑裕之氏の共著『工藝とは何か』の刊行を記念したトークショーが東京大学駒場キャンパスにて開かれました。
 登壇されたのは、デザイナーの堀畑裕之氏と関口真希子氏、工藝家の赤木明登氏、映画監督の三宅 流氏、東京大学名誉教授で哲学者の小林康夫氏です。「美意識と手仕事」をテーマに美を感じる心と、ものづくりに関する根源的な問いから見える世界を語る、大変興味深いイベントでした。

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 私は、特別先行試写会で映画 『うつろいの時をまとう』を昨春行われた「matohu」23/24秋冬コレクションで鑑賞していました。(このブログ2023.4.9付け参照)
 映像では、堀畑裕之氏と関口真希子氏が街を歩き、日常の風景に見られる微細な美、たとえばコンクリートのひび割れやシミ、塗装がはがれた錆などをスマートフォンで撮影し、それを服のデザインに昇華する様子が映し出されています。二人は、日本古来からの美意識である「無地の美」に着目し、何気ない風景の中から無限のテクスチャーや色合いを見出し、それをデザインに反映させる創作哲学を実践しています。日常の中で美や豊かさを発見するデザイナーの視点を端的に表現するアートドキュメンタリー映画で、久しぶりに静かな感動を覚えた作品でした。
 第41回モントリオール国際芸術映画祭のオフィシャルセレクションに出品され、ワールドプレミア上映されて、日本では今年3月25日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム他で、現在、全国を順次公開中です。

 トークでは、これまで気づかなかった「学び」がたくさんあり、下記にそのいくつかをまとめました。

「matohu」のテーマである「日本の眼」、その全体像や由来
 堀畑氏は、民芸運動の創始者である柳 宗悦が病床で書いた数ページの文に触発され、日本人が培ってきた独自の視点、「日本の眼」が現代にも通じることを強調します。柳は、西洋の工芸に偏る現代の美術界に憤りを感じ、日本の「無地の美」や「数奇の美」などが西洋への贈り物となり得ると述べています。堀畑氏は、この視点に立ち、日本のものの見方を再評価して、服のデザインに反映させる試みを始めました。8年間にわたる17章のコレクションを通じて、伝統的な「侘び寂び」という言葉を使わずに、「見ることの学び」を追求したといいます。

「見ることの学び」について
 堀畑氏の友人である輪島塗の赤木氏も、「見ることの学び」の重要性を語ります。赤木氏は35年にわたり漆の色彩を追求しており、現在は白い漆の黒を探究しているとのことです。
 堀畑氏も藍の複雑な色彩の神秘に触れ、映画監督の三宅氏も映画の中で「無地の美」に共感したと語っています。
 赤木氏は日本の伝統工芸が消えつつある現状を憂い、手仕事の重要性を強調しました。弟子を取って技術を継承することが重要で、師匠の仕事を「見て学ぶ」ことで技術が身につくと述べています。
 関口氏も江戸小紋の技術、中でも鮫小紋が失われつつあることを懸念し、人の手による制作が心に触れるものであると主張しました。
 また、堀畑氏は独立前にコムデギャルソンでパタンナーとして働いていた際、川久保氏から「服を良く見なさい」と教えられたとか。襟の角度など細部に目を向けることの重要性を学んだそうで、この経験から、伝統工芸以外でも「見ること」を学び、身体的に取り入れることができると感じたとのこと。過去の日本人の視点を取り入れる中で、昔の人の身体感覚と重なる瞬間があり、映画ではそこのところもうまく表現されているといいます。

「不作為の美」とは
 堀畑氏は、ものづくりにはコントロールできない部分があり、偶然の美は完全に無作為ではないと述べます。「ふきよせ」と「ぼろ(BORO)」のテーマは、不作為の美や偶然の美を表現し、街路に吹き寄せられた落ち葉の美と繋がります。
  関口氏は、意図しない美を取り入れたコレクションを通じて、不作為の美の価値を強調します。
  赤木氏は、漆の世界では計画的な美が求められますが、それでも言葉の届かない部分が存在すると語ります。
  堀畑氏は、ブランド名を「纏う(まとう)」と動詞にしている理由について、着る人が主語であって欲しいからだと説明します。そこには「ふきよせ」をまとって欲しいという願いも込められているといいます。映画では、服をまとう人の視点も描写されており、出演者の一人である赤木明登氏がコートを纏って夕焼けと一体化するシーンが「うつろいをまとう」ことの重要性を示していて、まさにこの言葉「うつろいをまとう」が映画のタイトルになったそうです。

自然と工芸との関わりについて
  小林氏は、ものづくりが自然を破壊する一方で、自然と共振することもあると述べ、伝統工芸は自然を利用していますが、それ自体が自然ではないと指摘しました。
 堀畑氏は、「自然」という言葉が明治時代に哲学者の井上哲次郎によって「ネイチャー」を翻訳するために作られた新しい言葉であると、注意喚起します。それ以前の日本では「自然」という概念は存在せず、山や川があるように、また自然薯という言葉にも見るように「おのずからしからしむ」と、勝手にそうなっているものを意味していたとのことです。日本では自然と人間が対照化されず、自然の中に自分たちも含まれているという感覚だったのです。ギリシア哲学に見られる「人工と自然」の対立は日本では意識されてこなかったとの説明に納得、感服したことでした。

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2024年6月11日 (火)

「青藍工房展 Parisの予感」プレス発表会 阿波藍モダンに

 この2月のプルミエールヴィジョン(PV)パリで国際的な職人技を紹介する特設エリア「メゾン・デクセプション」(このブログ2024.2.22付け参照)が開設され、そこでとりわけ目を惹いていたのが、徳島から初参加した「青藍工房」でした。
 この染色工房がこの5月中旬、東京・銀座かねまつホールで「青藍工房展 Parisの予感」を開催、プレス発表会に招待していただき、行ってきました。
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 徳島の藍染めは「阿波藍」と呼ばれ、江戸時代から国内の藍染市場を引っ張ってきました。「藍染のふるさと」と呼ばれる所以です。しかし、戦後、化学染料が登場すると、すっかり廃れてしまいました。そうした中、藍染の復興を願って1971年に橋本陽子氏が創設したのが「青藍工房」でした。橋本さんは溶かした蝋を生地に塗ることで、その部分が染まらないようにする「蝋けつ染め」によって、藍の濃淡を表現する独自な作品を生み出しました。
  2022年ル・サロンの絵画部門に入賞し、2023年パリのルーブル美術館で開催された「第28回国際文化遺産展示会」に出展し大きな話題を集め、今年のPVパリ「メゾン・デクセプション」への選出にもつながったといいます。

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 会場には橋本陽子氏(写真の車椅子の女性)とその娘である浮川初子氏夫妻(写真の両端)と橋本清子氏ら、橋本ファミリーが集い、華やいだ雰囲気にあふれていました。

 ここから展示作品の一部をご紹介します。

Img_74051  カトレアの花をモチーフに藍の濃淡で染めたシルクオーガンジーで仕立てたドレスです。前身頃2m、後身頃3mと、5mの布地が使われているとのことで、優美さたっぷりの仕上がりです。(浮川初子氏の作品)

Img_73911_20240617090101  「艶やかな美人」という花言葉の「月下美人」の花を、シルク紬に染め上げた幻想的なドレスです。(浮川清子氏の作品)

Img_74001_20240617090101  古代文字「西周金文の十二支」(浮川初子氏の作品)です。

Img_74041_20240617090201  2022年の「ル・サロン」展で、橋本陽子氏が初入選を果たした《上巳の渦》と名づけたテキスタイル作品です。「動物の爪が獲物を捕らえるかのような渦巻の表現が素晴らしい」と高く評価されたといいます。確かに葛飾北斎を思わせる大胆な構図は圧巻!と思いました。

 伝統の藍染めを藍蝋けつ技法でモダンに表現した藍の美を堪能したひと時でした。

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2024年6月10日 (月)

横浜トリエンナーレ 映画『首相官邸の前で』上映会&トーク

 今回の横浜トリエンナーレでは「野草の生きかた:ふつうの人が世界を変える」と題して、小熊英二監督映画『首相官邸の前で』の上映と、小熊英二氏を招き蔵屋美香(総合ディレクター/横浜美術館館長)とのトークによるスペシャルイベントが開催されました。

Flyer_s  映画『首相官邸の前で』は主に2011-12年の脱原発運動の流れをわかりやすくまとめたドキュメンタリー映画です。
 2012年夏、ごくふつうの20万人の人びとが首相官邸前に集まり、原発にまつわる政策に抗議しました。原発事故前は異なる立場にいた8人が危機を経て「脱原発」と「民主主義の危機」という共通の言葉で集まって、民主主義の再建は可能なのか。現代日本に実在した奇跡的な瞬間をとらえた作品です。

 トークでは、小熊監督がこの映画を製作費、わずか50万円のポケットマネーでつくったとお聞きしてびっくり!スタッフは編集担当の石崎俊一氏と2人だけだったというのにも驚かされました。出演者は全員無償協力で、映像はYOUTUBEで配信されていたものを選び、著作権を一つ一つクリアにした上で編集されたとのことです。 
 誰でもやろうと思えばできるのですね。お見事というしかない、感動の映画でした。長いと思っていた上映時間の1時間49分はあっという間に過ぎました。

 小熊氏は社会学者です。それがなぜこのような映画を制作しようとしたのでしょうか。そこには理由が2つあったといいます。一つは、氏が現代史研究をされていることで、反原発運動を記録しておく必要があると思われたことだそう。1968年の安保闘争のときもきちんとした記録がなく、残っていたのは一番派手な映像・写真だけで、全体がよく分からない状態になっているとのことです。
 もう一つは、映像として絵になる場面が多数あり、記録に値するものが多かったからといいます。実際、私も映画を見て、街頭運動のプラカード一つとっても創意工夫があり、アートなおもしろさがある、と思いました。

 この運動は確かに日本で起こったことであり、誰もが忘れてはいけないことです。でも今はもう多くの人が思い出そうともしない、そんな出来事になってしまっているようです。私も反原発運動があったことを覚えてはいましたが、いつの間にか念頭から消えていました。
 改めてこの映画を見て、これ程の大規模なものだったとは思ってもいませんでした。この運動は、NYの「ウォール街占拠」や香港の「雨傘革命」とは違って、世界にほとんど知らされなかったといいます。これには大手メディアであるTVや新聞での取り上げ方が小さかったことが影響しているようです。
 氏は今回、この映画を世界各国で上映して、反響の大きさに衝撃を受けたと語られています。何も知識のない人が見てもまた、100年後の人が見てわかるように、との期待を込めてつくられた映画だったのですね。

 トークをリードされた蔵屋美香館長もステキな語り手でした。タイトルの「野草」とは、日本語では「雑草」という意味だそうです。気候変動や災害、戦争、経済格差に不寛容と、わたしたちの時代は多くの生きづらさを抱えていますが、「ふつうの人びと」が雑草のようにたくましく、これらを変える力となりうるのではないかと、希望の光を感じさせる上映会&トークイベントでした。

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2024年6月 9日 (日)

横浜トリエンナーレ ⑺ 美術館外壁の大壁画が面白い!

  横浜美術館の向かって左横の外壁には巨大な壁画が描かれていました。高さ15m×幅60mもあるとのことです。
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 これは参加アーティストによるSIDE COREbig letters, small things》という作品で、会期中、毎日少しずつ書き換えられ、変化していきます。
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 愛嬌のあるキャラクターや「A DUSTING OF WHITE POOP」、「TIRED TIRE」といった文字など、行くたびに違っていて面白い!

 こういうグラフィティアートは、パリなんかに行くとよく見かけるものです。政治的な意見や地域社会の訴えが多いですが、それがこの横浜に出現するとは思っていませんでした。

 この作品も今回のテーマ「野草:いま、ここで生きてる」のメッセージを伝える大きな役割を果たしていたように感じます。

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2024年6月 8日 (土)

横浜トリエンナーレ ⑹ 象の鼻パーク「ハイヌウェレの彫像」

 象の鼻テラスでは、横浜トリエンナーレ組織委員会と連携した屋外アート展示企画として、信仰といった土着的なモチーフを作品に投影している久保寛子の「ハイヌウェレの彫像」(2020年)が展示されていました。
 「ハイヌウェレ」とはインドネシアの神話に登場する女神であり、殺されたその体から食物が生まれたと言われています。この種の神話は世界各地に点在していて、民俗学ではそれらをまとめて「ハイヌウェレ」神話と名付けられているとも。
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 近づいてみると、仰向けに寝そべっている女神の彫像はほんとうに巨大でびっくりしました。断片化された身体の1片、1片が特段の大サイズです。こんなにも大きなものを運んでくるとは、それだけでも大変だったのではないかと思いやられました。鉄の骨組みを土で丁寧に塗り固めていく作業には相当な時間がかかったことでしょう。

 象の鼻カフェで行われた久保寛子と神話学を専門とする平藤喜久子の対談にも途中参加させていただき、彫像誕生の経緯などを伺いました。
 構想をスタートさせたのは新型コロナウイルスの脅威に晒され始めた2020年。社会や人類の未来に対する不安が、創作への関心を根源的、原始的なものへ向かわせ、世界の古代神話にヒントを求めるようになり、「ハイヌウェレ」に行き着いたといいます。
 中でも“土”は日本の縄文土器や土偶にもみられるように、人間の創作活動において最も古い素材の一つで、世界や人間の始まりを“泥”や“粘土”として表現する神話も多く存在しています。
 「ハイヌウェレの彫像」は、雨や日光、風などの自然要素の影響を受けて時間とともに変化して、私たちに様々なイメージを喚起させることでしょう。この“土”の女神像を通じて、古代人が抱いていた希望や夢に思いを馳せてみては、と思いました。

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2024年6月 7日 (金)

横浜トリエンナーレ ⑸ アートもりもり「再び都市に棲む」

 今回の横浜トリエンナーレは、横浜駅から山手地区におよぶ広いエリアで、「アートもりもり!」と称し、「野草」の統一テーマのもとでアートを楽しめるプログラムになっていました。

 その一つ、「UrbanNesting:再び都市に棲む」と題した展示を見てきました。
 みなとみらい線「新高島駅」地下1階に広がる大空間に展示されていたたくさんの作品の中から、とくに気になった展示を紹介します。

 入口にドーンと置かれていたのが、巨大な土玉でした。
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 これは反骨のアーティスト、柳 幸典の作品《Ground Transposition》(1987/2016)です。この玉の中には3・11東北大震災の原子力発電所事故のために除染された土が入っているとのことです。

 またファッションデザイナーでアートディレクターの矢内原充志の作品、「うつを向いて歩こう」の展示も興味深かったです。
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 展示されていたのは、横浜の街をうつのように下を向いて歩き、道路を身長の高さから見下ろして撮影した写真をそのままプリントした生地で仕立てた服のコレクションです。
 服が道路の模様に溶け込み合う、都会のカモフラージュ! これまで見たことのない斬新なアイディアに感銘しました。

 みなとみらい線馬車道駅コンコースには、写真家、石内 都の「絹の夢-silk threaded memories」がインスタレーションされていました。
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 石内 都は群馬県桐生市で生まれ、6歳まで過ごしたといいます。桐生は織物の産地ですから、絹への関心は強かったことでしょう。2010年より銘仙や繭、織物工場、製糸工場の撮影を始めたそうです。
 横浜はとりわけ絹とゆかりの深い都市でもある、ということで、現在も稼働している絹の製糸工場と、屑まゆを製糸して化学染料で染め、平織した廉価な銘仙のきものの写真がインスタレーションされました。
 「絹の夢」は、近代日本の栄光を象徴する美しい光沢のある絹を見事に描き出しています。

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2024年6月 6日 (木)

横浜トリエンナーレ ⑷ 「すべての河」の章

 横浜トリエンナーレのテーマ「野草:いま、ここで生きてる」の「すべての河」と名付けられた章は、メイン会場である横浜美術館以外に設置された二会場で展示されました。
 「すべての河」というタイトルは、イスラエルの作家ドリット・ラビニャンの小説『すべての河』(2014年刊)から取られています。このタイトルは、数多くの小さな流れが合流して大きな川になる様子を比喩として使い、国籍、人種、宗教、言語の違いを超えて結びつく新しい社会関係を象徴しています。

 一つ目の会場はBankART KAIKO。約100年前の帝蚕倉庫の一棟を復元した建物内にあるアートスペースです。
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 ここでは本展の最年少作家、25歳のミャンマーのアーティスト、ピェ・ピョ・タット・ニョのインスタレーション、《わたしたちの生の物語り》(2024年)が目を惹きました。金属や植物、人工的加工物が入り混じり、朽ちて崩壊していくようである一方で、新しい生命体に変態したかのように見える作品です。有機的な形と赤い光が合わさった様子は、何やら奇妙な生き物のよう。また3年前から内戦が続くミャンマーに生まれた、全く新しい生命体かもしれません。

 二つ目の会場は旧第一銀行横浜支店です。1階ホールでは、カフェや古着屋、 低料金の宿泊所などを運営する人々の活動が紹介されていました。
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 中でも目立っていたのが、杉並区高円寺でリサイクルショップ「素人の乱」を経営しながら、任意団体「貧乏人大反乱集団」を主宰する松本哉による大パネル展示です。そこには「革命の先にある世界」をイメージして、「世界大混乱!! もうやるしかない!!」とか「2024年、世界のマヌケ地下文化圏の奴らの交流は、いよいよとんでもないことに!!」などと書かれています。かつての反体制派の若者たちを彷彿させられ、もし革命が起こったら、こんな風になるのかも、と思ったりしました。
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 またリメイクブランド「途中でやめる」の山下陽光が初参加し、今回のテーマである「野草」をモチーフにした新作を発表、リメイク服を展示販売していました。

 2階では、オランダの作家、ブック・フェルカーダによる《根こそぎ》 (2023‐2024年)と題したHDビデオ(カラー / サウンド / 6分30秒)上映が行われていました。
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 庭に住む植物や虫たちが、薬剤をふりまく庭師に、わたしたちが生きる環境を壊さないで、と語りかけるストーリーです。動物と人間、植物が混じり合ったような奇妙なキャラクターが登場し、夢で幻覚を見ているような世界が繰り広げられます。
 人と自然の新しいあり様を表現するアニメーションでした。

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