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2024年9月

2024年9月30日 (月)

RFWT 25春夏 ⑽ フェティコ テーマは「秘密」

 舟山瑛美デザイナーが手掛けるフェティコ(FETICO)の2025年春夏コレクションショーが、東京タワーの麓にあるスターライズスタジオを会場に開催されました。
 ランウェイは、穏やかに揺れる水面の映像と共に、「The Secrets(秘密)」というテーマが壁一面に映し出され、静かに幕を開けました。デザイナーの舟山は、現代のSNS文化とは異なり、日常の全貌が見えにくい「秘密を持つ女性」に強く惹かれると語り、そのミステリアスな魅力をコレクションで表現しています。
Img_39961  今季のインスピレーションは、1980年代のヴィンテージアイテムに始まり、アフリカ系アメリカ人としてファッション界に革命を起こしたスーパーモデル・ヴェロニカ・ウェブをミューズに据えました。彼女の上品かつエレガントなスタイルを、フェティコらしいモダンでフェティッシュな解釈で再構築。さらに、映画『数に溺れて』からの影響を受け、ミステリアスでノスタルジックな世界観やクラシカルなファッション要素を巧みに取り入れています。パリのヴィンテージショップで出会ったテーパードパンツとビスチェからスタートし、80年代の洗練された着こなしがフェティコらしいエッジの効いたスタイルへと昇華されています。
 カラーパレットは、ブラック、ホワイト、グレー、ブラウンといったベーシックな色調を基軸にしつつ、1980年代を彷彿とさせる淡いピンクやフレッシュなライムグリーンをアクセントに加えています。モチーフには薔薇やポルカドットが用いられ、多彩なアイテムに散りばめられていました。

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 また、ブランド初の試みのスニーカーをはじめ、80年代らしいウエストマークを実現するベルト付きウエストバッグ、オーバル型のアイウェアなど、フェミニンなスタイルに意外性を与えるアイテムが、コレクションにさらなる魅力を加えて、ルックを引き立てていたのも印象的でした。

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2024年9月29日 (日)

RFWT 25春夏⑼ ヴィルドホワイレン「完全なる自分自身」

 ヴィルドホワイレン(WILDFRAULEIN)は、画家としての経験も持つループ志村が2014年に立ち上げたファッションブランドです。
 今シーズンのコレクション「Wholly oneself」は、デザイナー・ループ志村が自身の苦悩と成長の過程を最大限に表現したもの。半年間にわたる創作活動の中で、自らが見つめ直してきた「完全なる自分自身」をテーマに、志村の日本文化への愛が色濃く反映されています。 
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 渋谷ヒカリエのランウェイは、自作の絵画が飾られたステージと、作曲したバンドの演奏により幕を開け、特に日本舞踊や能などの伝統芸能を取り入れた演出が目を引きました。柔らかな素材をまとったモデルや、能面をモチーフにしたカジュアルなルックは、異なる芸術が融合し、志村が目指す平和な世界観を象徴しています。
 さらに今季は、ビスチェやハーネスを用いたウィメンズのルックが増え、闘う女性の美しさを強調。ゴムベルトやレオパード柄、ゴールドの羽根を取り入れたデザインは、志村の持つエネルギーと躍動感を衣服に昇華したものとなっています。

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2024年9月28日 (土)

RFWT 25春夏 ⑻ カミヤ 「マニッシュ・ボーイ」に着想

 神谷康司デザイナーによる「カミヤ(KAMIYA)」が山手線の高架下にある秋葉原キャンプ練習場にて25年春夏コレクションを発表しました。
 テーマはマニッシュ・ボーイ(Mannish Boy)で、これはマディ・ウォーターズが1955年にリリースした『Mannish Boy(マニッシュ・ボーイ)』の楽曲に着想を得たものといいます。
 コレクションは、ストリートカルチャーを反映したダメージや粗野な裁ち切りのアイテムが中心に展開されました。デニムジャケットやデニムパンツ、穴の空いたニット、裁ち切られたハーフパンツは、反抗的な若者の未熟さを表現する一方、ワイヤーで歪みを加えたデニムウェアも登場し、若さの純粋さや無垢さを感じさせます。また、光沢のある素材のジャケットやベストがストリートスタイルに織り交ぜられ、粗野に見えるアイテムにも端正なシルエットが残されています。さらに、迷彩やチェックなどの柄が積極的に取り入れられ、温かみのあるアメリカンカジュアルへと昇華されているのも特徴的です。特に、テーラードジャケットの背面には神谷家に伝わる家紋をモチーフにしたアゲハ蝶の刺繍が施され、“男たるもの”のシンボルとして継承の意を込めた存在感を放っていました。
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Img_39781jpg  
 カミヤ流の「男の哲学、かっこよさ」を迷える若者に向けたスタイル提案でした

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2024年9月27日 (金)

RFWT 25春夏 ⑺「コニテンプラ」デビュー 世界中の人へ

 2024年に誕生した元大関の小錦八十吉とテンボ(tenbo)の鶴田能史デザイナーによるコラボレーションブランド「コニテンプラ(52tenbo+)」は、「世界中の全ての人へ」というコンセプトを掲げ、誰もがおしゃれを楽しめるファッションを提案しています。
 今シーズン、楽天ファッションウィーク東京(RFWT)に参加し、渋谷ヒカリエにてデビューコレクションを発表しました。テーマは「自立」で、「体が大きくて洋服の選択肢が少なかった」という小錦氏自身の悩みから、プラスサイズファッションをスタンダードとしたルックを展開していくとのことです。

Img_37451  色彩豊かなデザインが特徴で、ヒマワリや水玉模様、バラの手描きなどが施されたアイテムがショーを彩りました。
 特に、色とりどりの花の刺繍が施されたブルーのドレスや、蝶々モチーフのヘッドピースを合わせたルックは、まるで花畑のような華やかさを演出。

 シルエットはオーバーサイズを中心に、アシンメトリーやフリルを多用し、動きと個性を強調しています。


 Img_37951_20241008121001 また、着物の素材を使用した迫力あるルックも披露され、現役相撲力士・翔猿正也がモデルとして登場し、デザインの力強さを際立たせていました。
 小錦の相撲と和のルーツを反映した和風のエッセンスが随所に取り入れられています。

 聴覚や視覚に障害を持つ来場者のために、手話やMCによるルックの日本語と英語での解説が行われ、垣根を取り払うことで多くの人々が楽しめるランウェイが実現されていたことも印象に残りました。

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 モデルが登場するたびに会場から拍手が湧き起こり、終演後もなお、拍手が止まりませんでした。囲み取材に応じた鶴田氏は「身近なことに気づきを与えられるファッションブランドを目指したい」と述べ、ブランドのさらなる成長に向けて強い意欲を示していました。

 これからもますます輝きを増していかれますように、私も心から楽しみにしています。

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2024年9月26日 (木)

RFWT 25春夏 ⑹ グローバルファッションコレクティブ

 「グローバルファッションコレクティブ(GLOBAL FASHION COLLECTIVE)」は、バンクーバー・ファッションウィークから派生し、クリエイティブなデザイナーを支援することに特化したプラットフォームです。スタートしたのは2017年10月で、以来、世界各地の多様なファッション都市で革新的なランウェイショーケースをプロデュースしています。
 今シーズンも楽天ファッションウィーク東京(RFWT)に参加して、前半と後半の2部構成で7ブランドのコレクションを発表しました。
 
 前半はカナダの「オールドファッションドスタンダーズ」、日本の「フルタ」、古着屋の「フロント11201」です。

Img_37001 オールドファッションドスタンダーズ(OLD FASHIONED STANDARDS)
 カナダの高品質なワークウェアブランドです。
25春夏はキルトワークやセルビッジデニム、アップサイクル素材などを使用し、ヴィンテージ感と誰もが快適に着られるデザインが好感されます。

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フルタ(furuta)

 古田由佳利デザイナーが手掛ける日本のブランドで、2017年より「フルタ」を本格展開しているとのこと。
コンセプトは「ドレスを日常に」で、女性に寄り添うデザインに共感しました。

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 NY発のヴィンテージストアで、廃材から再生した糸やリメイクアイテムを使用した持続可能なオリジナルウェアを提案。
 テーマは「red(efine) line(変更箇所に印を付けるの意)」です。
 1930-40年代のアンティークファブリックに独自の加工を施したアイテムやリメイクアイテムに目が行きました。

 後半はメキシコの「ヒメナ・コルクエラ」、日本の「チドリ」「リンカネーション」、米国の「テス・マン アトリエ」です。

ヒメナ・コルクエラ (XIMENA CORCUERA)
  ファッションを通じて社会意識を高めるアートウェアブランドです。 Img_38971
 移民や気候変動をテーマに、ストーリーテリングで未来を描き、内省を促しつつ社会変革を目指すコレクションを展開しているとのこと。移民の感情的な旅に焦点を当て、人間味あふれる視点が伝わるコレクションでした。

チドリ(CHIDORI)
 ブランドを手掛ける藤原史成氏は「変身する服」をコンセプトに活動しているデザイナーです。 Img_39211  
 今シーズンもギミックを活かしたパターンで、変化するデザインが特徴のコレクションを展開しています。

Img_39381jpg リンカネーション(REINCARNATION)
 2022年にドレスメーカー学院を卒業し、同ブラントを設立。
 ブランド名の由来は輪廻転生、何度でも生まれ変わり新しい自分を見つけるというコンセプトです。
 血や内臓をテーマにゴスやゴシック&ロリータの要素を融合させた作品を制作。
 羊毛フェルトで内臓や血の表現に注力したコレクションを見せていました。

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テス・マン アトリエ(TESS MANN ATELIER)

 アメリカ人デザイナーのテス・マンは、ブライダルからイブニングウェアなど幅広く展開。
 高品質な素材と革新的デザインを重視し、エレガントで自信に満ちたスタイルを提案する「ザ・ソフィスティケート・コレクション(The Sophisticate Collection)」を発表しています。

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2024年9月25日 (水)

RFWT 25春夏 ⑸ シンヤコズカ 自作絵本を再解釈

 「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」の2025年春夏コレクションは、ブランド設立10周年を記念し、東京国立競技場で発表されました。このコレクションは小塚信哉デザイナーが学生時代に描いた自作絵本「いろをわすれたまち」に基づいており、テーマは「picturesque or die(「絵のように美しい」のか「終焉」か)」。過去に抱えていた「変わらなければならない」という思い込みから解放された彼は、絵本を再解釈し、現在の自分の視点でコレクションを創り上げました。

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 絵本「いろをわすれたまち」は、色彩を忘れた街に住む男が、青い絵と出会い、そこから始まる色彩豊かな世界の旅を描いた物語です。コレクションの序盤はモノトーンのルックで始まり、物語の進行に合わせて徐々に色彩が加わっていきます。ブルーカーペットが敷かれたランウェイでは、青を象徴的に使用したアイテムが登場し、物語の世界観がファッションで表現されていました。

 コレクションでは、同ブランドのアイコンであるバギーパンツやリラクシングなシャツなどがモノトーンで登場。徐々に温かみのある色彩が加わり、絵本のイラストをプリントしたシアートップスや、色鉛筆で描かれたような質感のペイントが施されたパンツやワンピースなど、物語の展開と呼応するデザインが披露されました。特に、ツイード素材のオールインワンはカラフルな糸で織られ、虹色のドットで装飾されたシューズや鮮やかなバルーンを背負ったルックは、今季の「おとぎ話的世界観」を象徴しています。
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 さらに、2023年春夏コレクションで話題を呼んだ「絵画を着る」スタイルも再登場し、100種類の青から選んだ鮮やかな青がキャンバスとして用いられたジャケットやスカートがランウェイに彩りを添えました。デザイナー小塚は、「友達の色」である青を大切にしており、今回のコレクションでも様々なアイテムに取り入れています。

 絵本「いろをわすれたまち」のストーリーに沿う形で、ショーは物語の主人公が色を取り戻していく過程をファッションで表現。終盤では再び色彩を失ったルックが登場し、カラフルな絵本の裏表紙が描かれたアイテムで締めくくられました。

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2024年9月24日 (火)

RFWT 25春夏 ⑷ ミツル オカザキ「狂気」をテーマ

 岡﨑 満デザイナーが手掛ける「ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)」が明治神宮前の地下スタジオ「PLAT」にて25春夏コレクションを発表しました。

Img_36521  今シーズンは「狂気」をテーマに展開され、ピンク・フロイドのアルバム『狂気』やパリ五輪の選手たちから着想を得たとのことです。
 赤色や血しぶき、無数のボタンといったデザイン要素を通じて、正気と狂気の二面性を表現していました。
 ファーストルックは全身赤のスタイリングで、狂気を象徴。楕円形のカットアウトや、ボタンの開閉でシルエットが変わるデザインなど、エレガンスを突き詰めると狂気が生まれるというメッセージが込められているといいます。

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 ショーは嵐の音から始まり、最後は全身白のルックとともに鳥のさえずりで幕を閉じ、狂気から正気への回帰を描き出していました。

 

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2024年9月23日 (月)

RFWT 25春夏⑶ フィリピンデザイナーブランド合同ショー

 楽天ファッションウィーク東京でフィリピンデザイナーブランド合同ショー、「ピーエッチ モード トーキョー バイ エムエフエフ(PH MODE x TYO by MFF)」が東京ミドタウン・デザインハブで開催されました。
Img_36331  これは、フィリピン最大のファッションウィークである2014年に設立されたマニラファッションフェスティバル(Manila Fashion Festival)で、国内を代表するデザイナーたちの最新コレクションを発表しているグループショーです。
 日本を代表する繊維専門商社であるSTYLEMとのコラボレーションで行われ、日本のクオリティ素材とフィリピンのエスニック素材を融合させたクロスカルチャーコレクションであることも注目されます。
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 フィリピン大使館から大使夫人も列席され、控えめながらも高級感のあるエレガントなコレクションでした。

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2024年9月22日 (日)

RFWT 25春夏 ⑵ テルマ「鶴の恩返し」をテーマに

 「JFW NEXT BRAND AWARD 2025」を受賞したテルマ(TELMA)が、2025年春夏コレクションで初のランウェイショーを開催し、独自のオリジナル生地とプリントで存在感を示しました。Img_35861
 テーマは「鶴の恩返し」で、フォーマルを解体し、フェミニンさを加えたレイヤードスタイルが特徴です。伝統技術を活かした和紙やコンニャク樹脂を使用した麻のような風合い、環境に配慮した京セラのインクジェットプリンター「フォレアス」による鮮やかなプリントなど、和のエッセンスを取り入れた素材が数多く取り入れられています。シルエットはコントラストを効かせたバランス感のあるデザインで、ボタニカルモチーフ、特にコスモスやひまわりの花がエレガントに表現されているのが印象的でした。Img_36001

 ランウェイ後、2025年の「JFW NEXT BRAND AWARD」を受賞式が行われました。
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 JFWO理事長の下地毅氏からデザイナーの中島輝道氏に記念クリスタルが贈呈され、中島氏は「TELMAは、コロナ禍において洋服の新たな可能性を感じ、立ち上げたブランドです。チームや産地をはじめ、多くの方々の支えのおかげで受賞に至りました。これまで培ってきた日本のモノづくりの力を、今後は世界へ向けて発信していきたいと考えています。」とコメント。

 ヒカリエ8階のキューブではテルマの展示会が開かれました。
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 ランウェイでは分からない、テルマの繊細なテキスタイルや職人技の細部を手に取って感じられる貴重な機会となりました。
 東京から世界へと飛躍するブランドとして、さらなる成長が期待されます。

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2024年9月21日 (土)

RFWT 25春夏⑴ 開幕に合わせアワード2025受賞者発表会

 日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW推進機構)では9月1日、「楽天ファッション・ウィーク東京25年春夏(RFWT 25春夏)」開幕に合わせ、東京都とJFW推進機構が主催する第10回「トーキョー・ファッション・アワード(TOKYO FASHION AWARD)2025」の受賞者発表会とその10周年記念展示イベントを表参道ヒルズにて開催しました。

 トーキョー・ファッション・アワードは世界を舞台に活躍するポテンシャルの高い東京の旬なファッションブランドを選定、表彰し、海外での展開をサポートするファッションアワードです。
 今回受賞したのは、メンズでは、馬場賢吾の「カネマサフィル(KANEMASA PHIL.)」、坂井俊太の「ハ゜ラトレイト(paratrait)」、玉田達也の「タム(Tamme)」、木村登喜夫の「トキオ(tokio)」、ウィメンズでは長見佳祐の「ハトラ(HATRA)」、小浜伸彦とリバー・ガラム・ジャンが手掛ける「リブノブヒコ(RIV NOBUHIKO)」、佐々木悟の「サトル ササキ(SATORU SASAKI)」、村上亜樹の「タン(TAN)」の計8ブランドです。

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 これら8ブランドに対しては、パリ・ファッション・ウィーク中に、本事業単独のショールーム「showroom.tokyo」を開設、世界の有力なバイヤーとのビジネスマッチングの機会を設け、25年3月のRFWT 25秋冬で凱旋イベントを予定するなど、国内外でのビジネス拡大を目指す支援が継続的に行われることになっています。

 JFW推進機構の下地毅新理事長は、「デザイナーは、評価や叱咤激励、そして世界の環境によって成長していくものであり、どんな時代でもファッションの力を信じて前に進んでいけるポジティブな強さを持てるよう、しっかりと後押ししながら関係性を築いていきたい」と挨拶。

 また受賞者で「これは」と思ったのが、メンズで「カネマサ フィル」のクリエイティブ・ディレクター馬場賢吾さんです。「私たちは和歌山のハイゲージジャージーに強みを持つテキスタイルメーカーを母体にし、3年前にブランドを発足しました。チーム全体で協力し、アワードを獲得し、これを出発点として、今後さらに世界へ向けてプロダクトを広げていきたい」とコメント。 
 それにもう一人注目したのが、ウィメンズで選ばれた「ハトラ」のデザイナー長見佳祐さんです。「コレクション発表と並行して多くのプロジェクトを進め、アーティストや職人、スタッフのサポートで受賞しました。ハトラは未来の服をデザインすることを目指しており、今後もコラボレーターと共に新たなフェーズへ進んでいきたいと考えています」と語り、私はさっそく祝福のメッセージを届けました。「ほんとうにおめでとうございます!」

 さらに表参道ヒルズでは9月2~7日、アワードの10周年を記念し、過去10年と25年の受賞デザイナーの合計68体の作品を展示し、一般公開していました。これだけの素晴らしい作品が揃うとなかなか壮観でした。

Img_35581  中央のモデルが「ハトラ」です。

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2024年9月20日 (金)

今夏の旅は熊野路へ ⑶ 瀞峡巡りと伝説の岬へ船の旅

  熊野では二つの船の旅を楽しみました。
 一つは、国特別名勝・天然記念物の瀞峡巡りです。「瀞」という文字は、「とろ」または「どろ」と読み、「川が深くて、流れが非常に静かなところ」の意味だそうです。
 乗船場は山の中にあり既に秘境中の秘境でした。ライフジャケットを身につけ小さな和舟に乗り込みます。
 圧巻は「瀞八丁(どろはっちょう)」です。荒々しく切り立った断崖が巨岩・奇岩とともに立ち並び、エメラルドブルーの水面に上下反転した形で映り込んでいます。
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 その鏡のような川面の幽水美を目に焼き付けて、奥へ奥へと進むとカヌーを操る人の姿や、瀞ホテル(今はカフェ)が見え、こんな神秘的な大峡谷にも人の営みがあることにビックリ!

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 暑さを忘れさせる清涼感にあふれた40分間の川旅でした。

 もう一つは、楯ヶ崎観光遊覧です。楯ヶ崎は神武天皇が八咫烏に導かれて上陸したと言われている伝説の岬です。
 船は鬼が城に近い松崎港を出発、鬼が城の大小無数の洞窟や奇岩奇勝を横目に、一路楯が崎を目指します。

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 大きな洞窟の穴が開いた青の洞窟、通称「ガマの口」にも立ち寄りました。昔、行ったことのあるナポリの青の洞窟のように中に入ることはできなくて、近づいただけでした。
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 大昔、古代の人々はこうした洞窟に遺体を水葬したそうです。船の揺れもあって、正直怖かったです。

 楯が崎は、太古の火山噴火による大自然が生み出した、日本一の柱状節理の大岩壁が広がるリアス式海岸です。神武天皇の最終上陸地で、ここから大和へ向かったと伝えられています。

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 そんな歴史のロマンに馳せながら、ふと海を見ると、トビウオの群れがさっそうとしぶきを上げて飛び交っていました。
  「飛魚や 熊野に別れの 波しぶき」

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2024年9月19日 (木)

今夏の旅は熊野路へ⑵ 熊野は黄泉の国への入り口?

 熊野で興味深く思った神社が、花の窟神社です。「花の窟」の由来は、古来から岩に花を供えてお祭りしたことからだそうです。 
 ここは日本書紀にも記されている日本最古の神社で、切り立った崖がご神体で窟のようになっています。前に立つと、どこか霊気が漂っているかのような神聖な空気感がありました。

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20240819144914imgp60231  この窟はいざなみの命のお墓で、黄泉(よみ)の国への入り口?と言われているとか。
 黄泉の国は死の国を意味しますが、その意味するところはカオスの世界であり、無限のエネルギーが秘められている宇宙です。そこには新しい命が生まれていると信じられていることから、「よみがえりの聖地」ともいわれているのです。

 異界に赴いた魂が生き延びて、命は流転するという壮大な思想が、熊野の自然に宿っている、そんな神秘を感じた旅でした。

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2024年9月18日 (水)

今夏の旅は熊野路へ⑴ 熊野三山で神話の神々に触れる

 今夏は以前から憧れていた熊野路を訪れました。世界遺産の熊野三山を巡り、たくさんの神話の神々に触れながら、熊野の自然がつくりだした造形を楽しみました。
 
 熊野三山の本宮大社は日本全国熊野神社の総本山です。158段の階段を上った高所にあって、社殿は他の2社と比べ、桧皮葺の落着いた雰囲気です。20240820112432imgp62721 20240820113428imgp62901
 主祭神の須佐之男命を始めとする十二柱の神々が祀られており、その厳かな雰囲気から格式の高さが感じられました。
 ものすごい暑さの中、本宮大社の旧社地 大斎原にも行ってきました。
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 2000年前にここに神々が降りたたれ、それが熊野信仰の始まりとなったという聖地です。明治時代に洪水で社殿が消失し、今では日本一という大きさの大鳥居が田んぼの向こうに立っていて、昔を偲ばせていました。

20240820155310imgp64331  次に向かったのが那智大社です。神武天皇が海上から山中にある滝を見つけ、そこに社殿を築いたとか。
 この滝が那智の滝で、水柱は落差133mの日本一の名瀑です。山と水と岩が一体化した、まさに自然信仰の最たるものと思いました。
 
 三重塔とその横に那智の滝が見える風景が美しかったです。
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 那智大社には八咫烏(やたがらす)が祀られていて、正面にはその銅像もありました。
 20240820152910imgp63961  
 八咫烏は熊野の神様のお使いである、三本足の烏で、日本サッカー協会のシンボルマークになっています。それにしても熊野でこんなにも烏が尊ばれていたとは、驚きでした。
20240820153518imgp64011  また宝物殿には豊臣秀長が奉納したという神像がズラリと展示されていて、その顔立ちが全員男性なのです。天照大神やいざなみの命は女性であるはずなのに、これは変と思って学芸員の方に訊いたら、それは「謎」とのことでした。

 ご神木の樟(右)は、幹が空洞化していて通り抜けることができるのも、ちょっと面白い体験でした。

 隣の青岸渡寺は神仏習合の霊場で、現在も熊野修験道の拠点です。20240820154330imgp64141
 NHKの大河ドラマ「光る君へ」に登場した花山天皇もここに参詣されたとのことでした。どのような思いだったのかと、当時の情景に思いを馳せました。
 ここから那智の滝までの熊野古道が意外に険しかったです。足を取られないように、恐る恐る歩いたことが思い出されます。

20240819153654imgp60381  もう一つの速玉大社は熊野川の河口付近にある神社(上)で、華やかな朱塗りの社殿が見事でした。

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2024年9月17日 (火)

「チョイス展」 独自の“カラー”を持つブランド数多く出展

 昨夏始まったファッション・雑貨・ライフスタイルの「チョイス(CHOIS-VOL.3)」2025春夏合同展が8月27日~29日、東京・渋谷エッジにて開催されました。
 出展したのは45ブランドで、その構成は、レディース50% メンズ50%、レディースやユニセックスのブランドが増加し、1点物やリメイクを得意とするブランドや普段合同展示会に出展しないブランドなど、独自の“カラー”を持ったブランドが数多く参加しています。 

バイブリ―コート Bibury Court  
 YUICHI SHIMOMA(ユウイチシモマ)が手掛けるアウトドアブランドです。
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 英国コッツウォルズ地方に位置する「Bibury」にある、荘園領主の館である『Bibury Court』 をイメージし、その敷地内で行われる英国伝統のカントリースポーツ・フライフィッシングの世界観をデザインに落とし込み、自然と伝統を融合させたコレクションを展開しています。

スリウム THURIUM 
 デザイナーは及川絵美さん、このブログ(2024.4.2付け)で既に紹介済みです。
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 シンプルでナチュラルな、さりげない美しさが魅力的です。

シーエ c/est
 ゾゾタウンの通販サイトにあるブランドです。"comfortable"の最上級、最高の満足、そんな想いが込められているとか。
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クライデン kleiden
 一見するとシンプルでベーシック。でも着てみるとちょっと違う。そんな少し変化のあるスタイルを提案するブランドといいます。Img_35071jpg

クラウド・オブ・バーズ CLOUD OF BIRDS
 少しだけ特別感がある、というちょっと気になるブランドでした。Img_35091_20240927140301

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2024年9月16日 (月)

トーク「身体とデザインエンジニアリング」未来の可能性探

  「21_21 DESIGN SIGHT」で開催された企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」に関連するトークイベント「身体とデザインエンジニアリング」では、身体とデザイン技術の未来について熱い議論が交わされました。
 登壇者には、デザインシステム「場の彫刻」を発表し、デザインとエンジニアリングを融合させた先駆者である村松充氏、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEでエンジニアリングチームを率い、ものづくりに革新をもたらしている宮前義之氏、そしてダンサー・振付家として活躍する辻本知彦氏が参加。モデレーターは角尾舞氏が務めました。

 村松氏は、自分の手にまとわりつく仮想的な粒子の軌跡を立体化するソフトウェアを使い、「場の彫刻」と題したモードなブレスレットのような作品群を紹介。Img_31901_20240926000901
 宮前氏は、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEでエンジニアリングチームを率い、ものづくりを行っています。A-POCとは、「一枚の布 (A PIECE OF CLOTH )」の英語の頭文字から取られた言葉で、1998年にこのアイデアに衝撃を受け、2001年に三宅デザイン事務所に入社。イッセイの服は、人の身体が入ったときに初めて完成するという哲学にも共鳴し、以降、イッセイ ミヤケのデザイナーとして新素材の開発を続けてきたといいます。
 2021年からは現ブランドを始動。
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 本展では、スチームストレッチ技術とアルゴリズムを活用した革新的な衣服を展示しました。

 辻本氏は、トーク中に体と服の動きの違いを実演し、会場の注目を集めました。彼が着用していたA-POC ABLE ISSEY MIYAKEのパンツは、ダンサーが理想とする身体のラインを的確に表現することができるといいます。
 さらに、登壇者全員が同じパンツを着用していたことに驚き、会場が一層盛り上がりました。互いへの尊敬と興味が溢れる、学びに満ちた素晴らしいトークセッションでした。

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2024年9月15日 (日)

企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」

   21_21 DESIGN SIGHTにて企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」が今月初めまで、開催されていました。
 本展ディレクターはデザインエンジニアで元 東京大学教授の山中俊治氏です。氏がこれまでに他のデザイナーや研究者、クリエイターたちと共に手掛けた多様なプロダクツとともに、専門領域が異なる7組のプロジェクトによる多彩な作品が紹介されていました。
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 最先端技術とデザインの出合いが生んだ「未来のかけら」は一つ一つが興味深くて、ワクワクするような楽しさでいっぱいでした。

  中でも私がもっとも注目したのが、宮前義之率いるエンジニアリングチームによるA-POC ABLE ISSEY MIYAKEと、メタマテリアルを活用して独自の設計技術を展開するNature Architectsの「TYPE-V Nature Architects project」の展示です。

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 出品されていたブルゾンは、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEによる熱を加えると布が収縮する「スチームストレッチ」技術とNature Architectsのアルゴリズムによってつくられた布を用いて制作されていて、切断も縫製もすることなく、身体にフィットしているところが素晴らしい!

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 熱を加えるだけで狙った立体に変形する技術は、アパレルに限らず家具や照明などさまざまなアプリケーションに応用できる可能性を秘めていて、今後の製品開発において新たなデザイン手法として広がりを見せることになりそうです。

 稲見自在化身体プロジェクト+遠藤麻衣子のインスタレーションもおもしろい! Img_31821
 「稲見自在化身体プロジェクト」は、身体を変幻自在にする「自在化技術」の研究を行うプロジェクトです。ここではこの研究をテーマに制作された遠藤麻衣子監督による短編映画『自在』の世界観を少しだけでしたが鑑賞しました。ロボットと一体化した少年の物語です。着脱式ロボットアームを身につけた人機一体の身体表現が衝撃的で、どこか異様なインパクトで迫ってきます。技術と身体が融合する未来の可能性に、驚きと不安が入り混じった感覚を抱かせる作品でした。

 RAMI : AM製 陸上競技用義足です。ズラリと並んでいたのが壮観でした。
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 山中研究室+新野俊樹・臼井二美男による、RAMI(ラミ)は3Dプリンティングによる義足のデジタル化を目指すプロジェクトで、機能的で美しい義足をより多くの人々に供給するため、製作作業の一部を自動化するソフトウェアなどを含め開発を進めてきたといいます。義足だけではなく、義手も洗練されたデザインでステキでした。

 『CanguRo(カングーロ)』というバイク型のロボットも、こんなのがあったらいいなと思ったプロダクトでした。
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 かつて人にとって乗り物だった「馬」をイメージしていて、現代の最新ロボティクス、AI技術との融合でバイクのように乗るだけでなく、主人の後をついていくように自立走行もするとか。走行距離あたりエネルギー消費効率はガソリン車の1/6程度といい、今後、二酸化炭素(CO2)削減に大きく貢献する交通手段として期待されます。

 この展示を通じて、最先端技術とデザインの融合が、私たちの日常や未来に新たな可能性をもたらすことを強く実感させられました。技術革新の進展が、デザインの枠を超えた豊かな創造性と社会的な価値を引き出す時代が、ますます近づいているのを感じた展覧会でした。

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2024年9月14日 (土)

見寺貞子氏講演 シニアファッション―ユニバーサルファッション : おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤

  「ユニバーサルファッション協会では、8月26日にオンラインでUFトークイベントvol.2を開催しました。講師にお迎えしたのは、神戸芸術工科大学名誉教授であり(株)髙嶋デザイン製作所代表取締役の見寺貞子氏です。テーマは『シニアファッション―ユニバーサルファッション: おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤』でした。
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   見寺氏は長年にわたり『ユニバーサルファッション』を研究テーマに掲げ、年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、ファッションを通じて心豊かな社会を実現することを目指して活動されています。産官学民連携のもと、子どもや障がい者に向けたデザイン指導やモノづくり教室を通して、ユニバーサルファッションの教育と普及に努めてきました。なお、本イベントのタイトルは、2020年に出版された見寺氏の著書『ユニバーサルファッション: おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤』から引用されています。

 ファッション業界はこれまで若者向けを中心に企画・生産・販売を行ってきましたが、現代では50歳以上の人口が半数を占め、高齢者が全人口の3分の1を占める時代となっています。このような社会において、国籍、性別、年齢、障害の有無にかかわらず、すべての人が豊かに生活できる社会の実現が不可欠です。そのためには、ファッションにおける「ユニバーサルデザイン」の意識を高め、社会全体でその構築を進める必要があります。
 本トークでは、見寺氏がユニバーサルデザインの考え方をファッションに応用した「ユニバーサルファッション」に関する教育・研究・社会活動の事例を通じて、シニアファッションの効果とその重要性について語り、今後の生活に役立つヒントを示されました。

 以下に、その講演のポイントをまとめました。

 氏は、ユニバーサルファッションを研究対象にした理由を、1996年に開催した「高齢者・障がい者のためのファッションショー」に遡るといいます。その際、福祉条例「寝たきりゼロへの10カ条」と出会い、その中の4項目がファッションに関連していることに気づきました。具体的には、衣服の着脱がリハビリ効果をもたらし、身だしなみを整えることで脳が活性化することが示されていました。ファッションへの関心が残存能力を引き出し、社会参加を促し、QOL(生活の質)の向上に寄与するという考えが、この条例との出会いを通じて明確になり、ユニバーサルファッションの研究を始めるきっかけとなったのです。

 また、ユニバーサルファッションにおいては、ユニバーサルデザインの7原則がどのように応用されているかについて、次のように説明されています。

1. 公平性 : 体格、年齢、障害の有無を問わず、誰もが快適に着用できる衣服の提供を目指す。
2. 自由度 : いつでもどこでも手に入りやすく、アクセス可能なファッションを実現する。
3. 単純性 : 誰でも簡単に着られるよう、サイズ調整が容易なデザインを追求する。
4. 分かりやすさ : 着脱しやすさを考慮し、わかりやすいデザインや着用方法を採用する。
5. 安全性 : 視認性を高めた、安全性の高い衣服を提供する。
6. 身体への負担の軽減 : 付属品に配慮し、身体への負担を最小限に抑える工夫がなされている。
7. スペースの確保 : 適度なゆとりを持たせ、快適な着心地を実現している。

 衣服は「第二の皮膚」とも称され、人の生活に欠かせない存在です。人間工学(エルゴノミクス)の一分野である被服人間工学は、人間の体に心地よくフィットし、快適かつ審美性のある衣服設計を追求する学問であり、これがまさにユニバーサルファッションの根幹を成すとされています。

 ファッションの学びは、まず人間の観察から始まります。年齢とともに体型が変わり、生理機能も衰えるため、機能性を重視したファッションが求められます。人間の姿勢や動きに応じて、各部位には異なる伸度が必要となるため、衣服制作では部位に応じた適切なサイズや伸縮性を考慮しなければなりません。また、体型や姿勢に合わせた補正が重要です。たとえば、背中や腰が曲がっている人や車椅子利用者には、パターンを調整し、肌が弱い人には縫い代が外にあるデザインや無縫製のニットを採用します。さらに、着脱を容易にするためにマジックテープやファスナー等を使用し、排泄を考慮した工夫として、前ファスナーを股下まで伸ばしたデザインのズボン等が推奨されています。

 次に、年齢や障がい者を取り巻く問題について述べます。高齢社会の進展に伴い、身体障がい者の数は増加しており、その中でも肢体不自由者が53.9%を占めています。その多くは、脳卒中による片麻痺や脊髄損傷による対麻痺の患者です。
 氏は、彼らの体型特性を理解することで、健常者との違いが明らかになり、より多くの人々が快適に着用できる新たな衣服設計が可能になると考えました。そのため、片麻痺者と対麻痺者の男女各1名ずつ、計4名を対象に配慮した衣服制作を行ったそうです。求められたのは機能性と装飾性を兼ね備えた衣服でした。外出用の衣服には、明るい色や機能と装飾が調和した素材が望まれました。また、体型面では左右対称に見えるデザインや、座位姿勢に適した台形シルエットが好まれ、特に座位姿勢に適合した日本の形状が有用であることが示されました。機能性では、前開き、大きめのボタン、前ファスナー、ウエストのゴム仕様、伸縮性素材の活用、さらにポケットの追加が要望されました。今後も、肢体不自由者に特化した衣服設計のためのシステム開発が期待されると述べています。

 2004年には、ユニバーサルファッションの理念に基づき、障がい者に対応するユニバーサルボディの開発を目指して、片麻痺の高齢女性に対応可能な可動式ボディの研究開発に取り組みました。この結果、より人体に近い姿勢を再現できるボディが表現できたといいます。
 若者と高齢者・障がい者の違いについては、体型やサイズ、機能性において高齢者・障がい者の不満が高い一方で、ファッション性、社会性、経済性に関しては大きな差がないことが明らかになりました。つまり、高齢者や障がい者でも、いつまでも若々しくおしゃれでありたい、社会の一員として積極的に活動したい、高価でなくてもおしゃれな服を着たいという思いが強いのです。このことから、衣服設計には、外見だけでなく内面の心のありようをファッションで表現することが重要であると指摘しています。

 さらに、ガン患者に配慮したヘアハットの調査研究にも触れます。日本ではガン患者に配慮した帽子は市販されているものの、ベーシックな筒型が多く、選択肢が少ないのが現状です。2013年のデンマークでの調査では、楽しいデザインが豊富で、アメリカでもバリエーションに富んでいました。日本は快適性に配慮した素材や品質重視で、つけ心地は他国より優れています。ファッションを楽しみ、生活の向上に役立ててほしいと述べています。

 また、社会活動として、しあわせの村との地域連携や、兵庫県警との減災ファッションの推進、2005年から2023年まで実施してきた兵庫モダンシニアファッションショーを紹介しました。この活動は2016年に映画化され、ドキュメンタリー作品「神様たちの街」が全国上映されました。この作品は2018年以降、アジアから欧米へと拡大しています。2016年からは洋裁マダム(シニア)✕ ユニバーサルファッション ✕ リメイク教室を開いており、神戸の街をユニバーサルファッションのモデル都市にしようという活動を続けています。

   その背景には、社会福祉国家として知られる北欧の理念が強く影響しており、北欧では人間の尊厳を重視し、自己決定や過去の暮らしの継続性、そして自己資源の開発が重要視されています。このような北欧の生活文化に学び、神戸では高齢者や障がい者が自分らしく快適に生活できるためのデザインを推進しています。これが、ユニバーサルファッションのモデル都市を目指す神戸の取り組みにもつながっています。日本ではファッションというと衣服を中心に捉えることが一般的ですが、欧米では生活全般のデザインが重要な要素とされています。北欧の生活文化においても、衣服だけでなく生活全般が自立支援に寄与していることを重視し、神戸でもその理念を体現していこうとしています。

 今後の展望として、氏は、ユニバーサルファッションが生活文化として定着することを願い、ファッションを通じて「生活の向上」を実現し、さまざまな人々のライフスタイルに寄与することが大切であると強調し、講演を締め括りました。

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2024年9月13日 (金)

「人間 ✕ 自然 ✕ 技術 = 未来展」未来の可能性を探る試み

 東京・有楽町のスシテックスクエアで、9月23日まで「人間 ✕自然 ✕ 技術 = 未来展」が開かれています。

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 ここではクリエイターの発想とテクノロジーにより人間と自然の関わり合いを探求する下記、9つの体験型展示が提案されていました。

 人間 × 植物 × AI あなたと一緒に、自然が成長したら?
 人間 × 動物 × AI AI を使って、架空の鳥類と話せたら?
 人間 × 鳥 × VR  鳥のように、大空を自由に飛べたら?
 人間 × 動物 × サステナブル 廃材が生まれ変わるとしたら?
 人間 × 生き物 × メタバース デジタルが未来の自然になったら?
 人間 × 昆虫 × ドローン ミツバチになって花の受粉を助けられたら?
 人間 × 公園 × モビリティ 緑あふれる公園がいろんな場所に移動できたら?
 人間 × 植物 × IoT デスクが心安らぐ植物と一体化したら?
 人間 × 植物 × 育種 もしも未来の新しい植物をつくれたら?

 とくに気になった展示プロジェクトを紹介します。

 一番興味を惹かれたのが、人間 × 植物 × 育種 もしも未来の新しい植物をつくれたら?  です。
 イネ・コムギ・トウモロコシという3大穀物の「サイブリッド(Cybrid)」植物づくりに挑んでいるのは、東京都立大学 岡本龍史氏と鳥取大学乾燥地研究センター 石井孝佳氏です。

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 展示では実際、交雑不全を克服した「イネ - コムギ」「トウモロコシ - コムギ」「パールミレットコムギ」などのサイブリッド植物を目にすることができました。
 Img_33371_20240922234901 右は収穫された「イネコムギ」で、金色に実った小麦のような稲穂が印象的でした。
 近年の気候変動と人口増加により、食料生産が危機に直面している中、このようなサイブリッド植物は従来の穀物に代わる可能性を秘めており、世界の食糧生産において持続可能な選択肢として注目されています。技術の進展とともに、より多くの人々がその恩恵を享受できる未来が期待されます。

 興味深く思ったのが、人間 × 公園 × モビリティ 緑あふれる公園がいろんな場所に移動できたら? です。
 これは都市の未来にむけた緑化を考え、社会実装するプロジェクトです。移動可能な公園をコンセプトにした「Moving Green Park」が出現していました。

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 この公園にはキャスター付きや組み立て式の遊具やベンチが置かれていて、都市内の緑の少ない場所や室内に移動し、自然と触れ合う時間を提供してくれます。緑に覆われた遊具を楽しみながら、人と自然の新しい関わり方を体験できる、魅力的な提案と思いました。

 ステキなアート作品は、人間 × 動物 × サステナブル 廃材が生まれ変わるとしたら?  です。

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 上は「寅」ですが、もう一つ「闘牛」を象った原寸大の動物のアートピースも展示されていて、ともに見事な仕上がりでした。何でつくられているのかというと、いずれも建築現場や家具工房から出た廃材だそうです。
 動物の造形物として再生された廃材は、豊かな曲線美を持ち、圧倒的な存在感で自然界の美しさを表現していました。持続可能な未来への可能性を感じる作品でした。

 若者がきっと面白がるプロジェクトが、人間 × 生き物 × メタバース デジタルが未来の自然になったら?  です。
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 これはアーティストたかくらかずきさんによるハイパー神社の展示です。
 私もこの摩訶不思議な神社詣でを初体験しました。プロジェクションの茅の輪をくぐって、LEDの参道を通り、2Dメタバースの拝殿をお参りします。ここまでは神社に参拝するときと同じですが、ここからがゲームの世界です。お賽銭箱がコントローラーになっていて、自ら「オニ」となって2Dメタバース世界を突入します。私は早々に引き返しましたが、今の若者にはこういうのが受けるのですね。
 デジタル技術が進化しても、神社への参拝という伝統は新たな形で未来に繋がっていくことを実感しました。

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2024年9月12日 (木)

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」文化が交わるとき

 この春から夏にかけて、東京・六本木の森美術館で「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が開催されていました。
 「世界が注目するブラック・アーティスト、待望の日本初個展!」とあって、私も黒人文化に触れてみたくなり行ってきました。

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 タイトルの「アフロ民藝」とはゲイツ自身が提唱している言葉です。
 民藝運動とは、手仕事によって生み出された日常づかいの雑器に美を見出そうとする運動です。ゲイツはこの運動と1960 年代に米国でアフリカ系アメリカ人によって始められた文化運動の「ブラック・イズ・ビューティフル」、即ち黒人の肌やアフロヘアなどの髪を美しいとする主張とが重なるものと考え、この言葉を造語したといいます。

 自分を陶芸家というゲイツは20年前、愛知県常滑市で習得した技術を基に多数の陶芸作品を制作しています。

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 上は「ブラック・ベッセル(黒い器)」シリーズです。アフリカの工芸や朝鮮、日本の陶芸などをヒントに制作したシリーズで、展示されていた中にあった赤い器はレザーで表面が編み込まれています。何とボッテガ・ベネタとのコラボ作品であるとのこと。

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 黒人の過酷な労働の歴史を語る作風のものも見られました。それが上の「7つの歌」(2022)です。屋根のタール職人だった父親へのオマージュとして制作されたとされている作品で、重厚に塗られたタールの暗く力強い質感が、時代を超えて引き継がれる苦闘の歴史を静かに物語っているようです。

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 上は「ヘブンリー・コード」(2022)です。ハモンドオルガンとレスリースピーカーによるインスタレーションで、通奏低音のようなループが響き渡り、香のかおりと入り混じることでブラックネスと民藝の融合を表現し、黒人にとって音楽がよりどころであるというエッセンスを巧みに描き出しているように思われました。

 他にもいろいろ。

 「アフロ民藝」は、ブラックカルチャーと日本の民藝という共に反骨精神に根差した二つの文化の融合です。本展は異なる文化の交わりから生まれる新たな視点と創造力が、これからの時代の価値観を築くきっかけとなる展覧会だったのではないでしょうか。

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2024年9月11日 (水)

「インドトレンドフェア東京2024」中国に代わる存在に

 広大な土地と豊富な天然資源を活かし、インドは繊維産業大国として発展を遂げています。2011年8月に日印包括的経済連携協定(CEPA)が発効し、繊維品目の関税が撤廃されたことで、現在は完全にゼロとなっています。この背景から、日本国内の企業はインドを発注先や仕入れ先、さらには生産拠点としてますます注目しています。

 そのインドの繊維産業の最前線を間近で感じられるのが、「インドトレンドフェア東京」です。今年7月23日から25日にかけて新宿住友ビル・三角広場で開催された第14回目のフェアには、インド全土から集まった250の企業・団体が出展。私も足を運び、その規模の大きさに驚きました。今回がこれまでで最大規模だそうです。

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 出展内容は、コットンやシルクなどの天然素材から再生ポリエステルを使用した製品まで多岐にわたり、特にハンドメイド製品を扱う企業が増えていることが印象的でした。多くの企業が日本市場向けに特化した企画を打ち出し、販路拡大に力を入れており、その活気に圧倒されました。
 インドが中国に代わる存在とされるのも納得できる内容でした。

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2024年9月10日 (火)

「髙田賢三 夢をかける」大規模回顧展に思う

 今夏、東京オペラシティ アートギャラリーにて9月16日まで、「髙田賢三 夢をかける」展が開かれています。私もその若き日々を知っています。これはどうしても見ておかなくては、と行ってきました。
 髙田賢三は1970年代、洋服の世界に革新的な新風をもたらし、日本人として初めて成功を手にしたデザイナーです。本展は2020年に没後、初となる大規模回顧展です。

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 会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、中央に展示されている第8回装苑賞受賞作品(1960年)です。ターコイズブルーが映える白いアンサンブルで、シンプルなカットに鋭い才能を感じます。

1_20240919162101  髙田賢三は1970年パリのギャラリーヴィヴィエンヌでブティックを立ち上げました。
 ブランド名は「ケンゾー」ではなく、当初「ジャングルジャップ」でした。
 同年4月のショーで披露した麻の葉模様のドレスが雑誌「ELLE」6月15日号の表紙に起用されました。
 これにより一気に人気に火が付きました。

 Img_28861_20240919162201 右は1982/83年秋冬のパリコレに登場したドレスです。
 色とりどりの花模様のリボンを縫い合わせたウエディングドレスで、ウエディングは白という常識を覆しました。
 モデルだった山口小夜子さん、ほんとうにステキでした。


 日本のキモノや和風の柄を使ったデザインを打ち出して、人気はうなぎのぼりに。

Img_29881  ボタンの代わりに羽織の紐のようにリボンを結んで合わせたり、スカートにはキモノの矢絣の柄に沿いプリーツ加工を施したり。

 ウールのコートには袖口や裃(かみしも)のようなデザインにキモノの柄を思わせる花柄のコットンプリント地をあしらっています。

 その巧みな素材使いに「木綿の詩人」と称えられました。

 世界のトップブランドの仲間入りを果たした「ケンゾー」です。さらなるファッション界における革新を推進し続けていきます。

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 和服にインスパイアされたのは生地だけではありません。服の縫製にも身体を締め付けないように、切り替えやダーツのない、直線的な裁断方法を取り入れています。
 衣服から身体の解放を目指し、動きやすさを第一に考えたデザイナーだったのです。

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 ここは民族や国境という枠を超えた高田賢三のデザインが冴えわたる空間です。
 花やチェック、幾何学模様など様々な柄や色彩、素材が大胆に組み合わさり、重ね合わせられたコレクションは、まさに「色の魔術師」と呼ぶにふさわしい! 
 桃源郷のような「ケンゾー」ワールドが広がっています。

 その最後のショーは、LVMHグループに「ケンゾー」ブランドを売却した6年後にあたる1999年に行われました。高田賢三はファッションショーにエンターテインメント性を取り入れた最初のデザイナーでもあったといいます。そのショーをビデオで見て、斬新な楽しさいっぱいの演出に驚かされたことが思い出されます。

 「いつまでも夢を追い続けていたい。どんなときも失敗を恐れず果敢に挑戦する、そんな冒険心が私の人生と創造の原動力になっている。」―― 高田賢三の名言です。

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2024年9月 9日 (月)

第57回モード・イン・フランス展 いち早く25春夏コレ発表

 第57回モード・イン・フランス展が7月23日~7月25日、東京・渋谷のEBiS303で開催されました。
 今回、いち早く2025春夏コレクションを発表したのは、フランスの35ブランドです。とくに目新しかったのは、会場中央に新設された特別展示ゾーン「ミフ・シェイカー(MIF SHAKER)」で、ここには日本未上陸の新進気鋭のフレンチブランドが集っていました。
 
 記者会見も行われ、フランス婦人プレタポルテ連盟のインターナショナル・プロジェクト・ディレクターであるアンヌ=ロール・ドゥリュゲ氏は、2023年のフランスファッション市場についてアジアや日本への輸出増を報告し、「円安の影響はありますが、質の高い商品と観光客の増加により引き続き新しい発注が期待されます」などと話されました。

 とくに気になったブランドをご紹介します。

ミニム・ パリ(MINIME PARIS)
 カラフルで華やかな一点物のヴィンテージが目に飛び込んできます。
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Img_28681  パリ2区にコンセプト・ストアがあるとのこと。テーマはアップサイクルとカスタマイズで、ヴィンテージ服やアクセサリーのカスタマイズワークショップが行われているといいます。
 日本マーケット体験のため出展し、リメイクジャケットや刺繍を施したヴィンテージアイテム、アクセサリーラインを紹介していました。
 襟や袖にシャネルのスカーフを使ったジャケットです。

エミール・エ・イダ(EMILE ET IDA)
   子供服から始まり、2017年に婦人服を展開。オーガニックコットンや麻など天然素材を使用し、詩的で絵画的なハンドメイドデザインが特徴です。 Img_28421
 製品の一部はインドで製造し、SDGsの観点から支援活動を行っているそう。日本市場拡大のためモード・イン・フランスに初出展したとのことです。

モワモント(MOISMONT)
 フランス企画・インド生産のスカーフブランドで、バッグやライフスタイルグッズも展開しています。Img_28451_20240919203401
 コロナ後、日本市場に再進出し、小ぶりなバッグやステッチ入りポーチが人気とか。スカーフへの関心も復活し、百貨店でのポップアップ展開も検討中だそう。

 次にブースの仕切のない「ミフ・シェイカー」ゾーンです。参加したのは日本初上陸の6ブランドで、内、下記2ブランドに注目しました。

レッド・レジェンド(RED LEGEND)
 南フランスのデニムブランドで、洗練されたカジュアルスタイルや、軽い素材で女性らしさを追求した船乗り風ボーダーニットのシャツ、マリニエールなどに目が集ったとか。Img_28611

メゾン・ルコント・フラモン(MAISON LECOMTE FLAMENT)
 クリエイティブなスカーフのブランドで、素材はすべてウール100%またはコットン100%。「天然素材は、私たちのファッションの一部であり、地球を守るための大切な選択」といいます。Img_28761

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2024年9月 8日 (日)

猛暑を避けて大弛峠へ行ってきました!

 今年の夏は猛暑続きで、ほんとうに身の危険を感じるほどの暑さでした。そこで8月中頃、涼を求めて長野県と山梨県の県境にある大弛峠へ行ってきました! 以前来たことがあって避暑するならここ、と知っていたからです。
 標高2,364mの峠はさすがに涼しい! 気温は23度くらい、下界のうだるような暑さとは全然違います。

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 朝日岳への登山の途中、樹々の間から奥秩父の兜岩が見えました。突起が兜のようです。この辺り一帯には不思議な形をした名も知れない奇岩が点在しています。

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 立ち枯れのシラビソが美しい森の景色を形作っていました。
 静寂に包まれたその風景に、自然の力強さと美しさを改めて感じました。

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2024年9月 7日 (土)

ミラノ パラッツォ・モランド美術館「ファッションの瞬間」展

 ミラノのサンタンドレア通りにパラッツォ・モランド(PALAZZO MORANDO)美術館があります。宮殿として使われていた歴史的建造物で、美術館として一般公開されています。
   ここで企画展「ファッションの瞬間:コルセットからサロペットまで」が開催されていました。同館所蔵の衣服やアクセサリーのコレクションを通して、女性の解放を7つのステップで紹介していました。
 最初はコルセット、次いで20世紀初頭の女性の解放の一つの象徴として、その廃止に向けた歩みを辿ります。1920年代の自由奔放な若い女性たちであるフラッパー、1930年代のエレガンス、第二次世界大戦中の困難、そして1950年代の高級仕立てを経て、1970年代のイタリアのプレタポルテの誕生、最後にその時代の若者文化を象徴するサロペットで締めくくられました。

 下記はその一部です。

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 左は20世紀初頭のコルセット、右はフォルチュニーによる手作りのイブニングジャケット(1920-25)です。

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 左は1925年のドレスです。ローウエストでバイヤスカットのペタル(花びら)スカートとジャボ、花柄プリント軽いシルク地。
 右は1951年のテイラーメイドドレスで、ラスコー洞窟の壁画に着想したプリントのシルクタフタ。

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 左は1963年のマリークワントのミニのジャンパードレス。英国から寄贈されたものだそう。右は1978年のフィオルッチの当時一世を風靡したデニムのサロペットです。

 展示では、衣服のカットやシルエット、スタイリングを、その制作時の状態に近づけて見せられるように、衣服が作られた際の物理的な形状を再現し(展示用のサポートを作成したり、マネキンを衣服に合わせて調整したり)、その形状を支えるために必要な下地を再現して、衣服の立体的な形状を理解しやすいように工夫しているとのことです。
 
 まさに服飾研究の一助になる展覧会でした。これが無料で公開されているとは、訪れる価値が一層高まります。

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2024年9月 6日 (金)

ミラノ10コルソ・コモ「ヨウジヤマモト 未来への手紙」展

 パリからミラノへ飛んで、ミラノウニカの取材を終えた最終日、モードの最新を感じるショップで文化複合施設でもある「ディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)」へ行ってきました。
 ここで開催されていたのが、日本を代表するデザイナーである山本耀司にクローズアップした特別展「ヨウジヤマモト 未来への手紙」です。

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  広々とした会場には、ヨウジヤマモトの言葉が白い壁に刻まれ、彼が愛する黒を基調とした服が展示されていました。デビュー以来、こだわり続けている黒という色彩、シルエット、そしてフォルムの中に、赤やグレー、白の衣装やアイテムが随所に配置され、アクセントを添えていました。
  それらはファッション研究者のアレッシオ・デ・ナヴァスケス(Alessio de’ Navasques)氏が、ヨウジヤマモトの象徴的なコレクションと最新のコレクションの中から厳選した25点です。

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 1986年秋冬の燕尾服から、2024年秋冬の最新作までのアーカイブは、「異なる時代間の対話の中で、時間の概念を打破する」という考えから、年代順ではなくテーマ別に展示されていました。
 そこにはトレンドに流されない美学があり、それが彼の服が愛されている理由ともなっているのでしょう。

Img_28211  右は、1986-87年秋冬の鮮やかな赤で彩られたビクトリアンスタイルのシルクコートです。
 写真家ニック・ナイト(Nick Knight)が撮影したことで有名なバッスルシルエットが印象的です。

 本展はヨウジヤマモトが培ってきた過去の美学を再確認するだけでなく、彼が常に未来を見据え、新たな挑戦を続ける姿勢を強く感じさせるものでした。これからの彼のクリエイションにますます期待が高まります。

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2024年9月 5日 (木)

セーヌ川クルーズ「バトー・ムッシュ」を楽しみました!

 私がパリを訪れた7月初旬、街はどこもかしこも、100年ぶりのオリンピックの話題で賑わっていました。特に注目を集めていたのは、セーヌ川で行われる開会式でした。私は友人から「バトー・ムッシュ」のチケットをプレゼントされ、オリンピック直前のセーヌ川クルーズを楽しむことができました。

 セーヌ川の遊覧船に乗るなんて、何と数十年ぶりの私です。アルマ橋近くの桟橋付近の風景など、すっかり様変わりしていて戸惑いました。
 日本のように暑くないパリの爽やかな風を感じながら、エッフェル塔、ルーヴル美術館、パリ・ノートルダム寺院、コンシェルジュリー、オルセー美術館など1時間かけて数々の名所を巡ります。川岸には開会式に向けて観覧席が整然と並び、準備が着々と進んでいる様子が見受けられました。選手団がこの川を船で進むのかと思うと、感慨もひとしおでした。普段見る歴史的建造物も、船上から眺めるとまた異なる趣があり、とても新鮮な体験でした。

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   写真は、セーヌに架かる橋の中でも最も美しいと言われるアレクサンドルⅢ世橋を通過した際に撮影したものです。鉄のアーチ構造や華やかな装飾を間近で見ることができました。

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 もう一枚の写真は、ノートルダム寺院の裏側です。工事用の柱が立ち並び、オリンピックには間に合わなかったようです。今年中に一般公開される予定とのことですが、船から見た限りでは、まだまだ工事が続きそうです。

 水質は以前より改善されたとはいえ、人が泳げるほど良好とは思えませんでした。それでもトライアスロン競技が強行されたのは、パリ市長のプライドがかかっていたからではないかと感じます。この問題はパラリンピックが始まっても、依然として解決されていないようです。

 帰国後、テレビでパリ・オリンピックを観戦しました。セーヌ川でのクルーズ体験があったからこそ、その感動が一層大きかったのだと感じています。

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2024年9月 4日 (水)

狩猟自然博物館 タマラ・コスチャノフスキー「世界の肉」展

 パリのマレ地区にある狩猟自然博物館を初めて訪れました。そこで感じたのは、伝統的な狩猟にまつわる美術品や動物たちと現代アートが驚くほど調和していることでした。

 開催されていたのは、アルゼンチン系アメリカ人アーティスト、タマラ・コスティアンノフスキーによるフランス初の大規模個展「La Chair du  monde (世界の肉)」です。彼女は、ファストファッションや高級工芸で浪費された繊維や家族の遺品を素材に、肉体や植物を模した彫刻を制作し、記憶と自然のつながりを探求しています。

 館内には彼女の作品約30点が常設展示と巧みに共存していました。
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 まず1階では、木の切り株を模した彫刻が目を引きました。よく見ると、シルクやコットン、ウールなど廃棄された布で構成された見事なアップサイクル・アートでした。

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 2階には、エキゾチックな鳥の死骸が天井から吊るされ、動物の屍が展示されていました。これらは、解体された肉体のように見え、存在の儚さを強烈に訴えかけています。

 彼女はパンフレットで、「このシリーズは、植物に変わる死骸を表現しており、それらは鳥やエキゾチックな植物を宿すカプセルとなります。私の作品は変容という視点から構想されています。虐殺の場である死骸が、生命の根を張る場、つまりユートピア的な環境としての母体へと変わるというアイデアです」と語っています。確かに作品は一見、残酷に見えますが、それは生命の再生と変容を詩的に表現しているのです。

 廃材を用いて、生命と死、美と残酷さを描くタマラ・コスティアンノフスキー。彼女は亡き人々の遺品を用い、詩情と不気味さが交錯するトロンプ・ルイユで劇場的なメメント・モリを創り出していました。この展覧会は、人間と自然の繋がりを改めて考えさせられる貴重な体験でした。

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2024年9月 3日 (火)

「裸であるか服を着ているか:ドラクロワと衣服」展

 ウジェーヌ・ドラクロワは、19世紀ロマン主義を代表する画家であり、ボードレールが「ルネサンス最後の、そして近代絵画最初の巨匠」と称賛した存在です。ルーヴル美術館にあるドラクロワの「民衆を導く自由の女神」は名画としてあまりにも有名です。
 この彼が生前最後に住んでいた、サンジェルマン・デプレにあるアパルトマンは現在、ドラクロワ美術館として一般向けに公開されています。
 今夏、この美術館で「裸であるか服を着ているか:ドラクロワと衣服」という企画展が開催されていて、見に行ってきました。

 展示は、ドラクロワがどのように人物を服で覆ったのか、あるいは裸のまま描いたのか、また、登場人物の衣装がどのようなものだったのかに焦点を当てており、大変興味深いものでした。

Img_01711  右はドラクロワの若き日の肖像画です。1825年頃に英国人の友人、タレス・フィールディングが描いたもので、首元には当時流行のスカーフ状のタイが飾られています。
 架空のキャラクターと肖像画が並んで紹介されていたり、ある作品では頭からつま先まで服をまとった人物が描かれていたり、また別の作品では裸のままの人物が描かれていたり。服装の有無は非常に象徴的であり、これらの選択は描かれた主題に関する情報を豊かに提供するだけでなく、ドラクロワの描画スタイルやアプローチについても深い洞察を与えてくれます。
 Img_01951_20240829193501  上は、ドラクロワの「バッカスと虎」1834年フレスコ画。


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 さらに、ドラクロワが描いた衣服そのものにも独特の象徴が込められています。作品には、布地の質感や色彩、細かなディテール、刺繍、模様などが丁寧に描かれており、袖や襟からは描かれた人物の時代背景やアイデンティティ、社会的地位をうかがい知ることができます。これらの衣装の描写は、ドラクロワがどのようなインスピレーションや参照元を用いて作品を制作したのかを理解する手がかりにもなっているのです。

 ドラクロワの作品に込められた奥深い物語やその芸術的探究心を垣間見ることができた展覧会でした。

Img_02011   中庭には可憐な風露草のピンクの花が咲き乱れていました。街中とは思えない静かさで、風にそよぐ葉音だけが心地よく響いていました。

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2024年9月 2日 (月)

「アライア/クラマタ、創造の軽やかさ」 響き合う二人展

    パリのマレ地区に位置するアズディン・アライア財団で、現在も開催中の「アライア/クラマタ、創造の軽やかさ(Alaia / Kuramata : la legerete en creation)」展を訪れました。
 会場に足を踏み入れると、そこは二人のデザイナーの魂が響き合い、一体となった世界が広がっていました。

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 倉俣史朗は、ガラスやアクリル、光などで構成される透明感、浮遊感に満ちたインテリアデザインで有名です。重力の法則を無視したような家具を軽やかで幽玄な芸術作品へと変貌させ、1990年にフランス文化省芸術文化勲章を受章しました。
 クチュールの名手であったアズディン・アライアは、倉俣史朗のアートに常に魅了されていたそうで、2005年に倉俣の作品展を開催しています。
 それから20年後、アズディン・アライア財団は、この亡き二人の卓越したアーティストを結びつける形で、2007年の創設以来初となる、このオマージュを復活させました。

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 今回の展示では、財団のコレクションから、倉俣の家具やオブジェとアズディン・アライアのオートクチュール作品、それぞれ22点が共鳴し合うように並べられていました。シンプルなドレスのルレックスのニットは、椅子の金属メッシュと呼応し、透明なアクリル製の棚はオートクチュールの繊細なモスリンと美しいハーモニーを奏でています。
 二人のアーティストの作品は、軽やかさと洗練さが融合し、異なる素材や形状の中に共鳴し合う美しさが宿っています。その出会いが生む予期せぬ調和が、展示空間に新たな命を吹き込み、一つの詩的な世界を創り上げていました。

Img_01531  二階の展示スペースでは、ジェシー・ノーマンのドレスが展示されていました。これは1989年フランス革命200周年記念式典のために国家を歌うジェシー・ノーマンのために特別に制作された作品です。
 1989年、フランソワ・ミッテラン大統領の下、文化大臣ジャック・ラングの提案でジャン=ポール・グードがフランス革命200周年のパレードをデザイン。アズディン・アライアは友人のグードに誘われ、金刺繍のベルベットコートやフランス国旗を使った、この歴史的なドレスを制作したといいます。
 チュニジア生まれの偉大なクチュリエ、アライアはフランス市民権を最も大切にしていたそうです。パリ・オリンピックと同時期のアライアに捧げる衣裳展は、彼が愛したフランス文化と芸術への深い敬意を示し、時を超えた彼の創造の遺産を今一度、祝福する場となっていました。

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2024年9月 1日 (日)

プチ・パレで「テオドール・ルソー 森の声」展

 パリのプチ・パレで開催されていた「テオドール・ルソー」展に行ってきました。ルソーと言えばアンリ・ルソーが頭に浮かびますが、これはテオドール・ルソー(1812-1867)です。19世紀初頭の風景画の革命に参加し、特にバルビゾンに定住してからはフォンテーヌブローで自然そのものを描き、「森の声」を聞きながら、印象派への道を切り開いた画家です。
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 当時は産業化の真っ只中で、森の開発が進められていました。ルソーは木を愛する者として、フォンテーヌブローの森を守るために闘い、その一部が「芸術保護区」(1853年)として保護されることになったといいます。まさに現代のエコロジーの先駆者だったのですね。

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 私もかつてフォンテーヌブローの森へ行ったことがあり、木立の中に現れた苔生した岩石群のある風景が日本庭園のようで、懐かしかったことが思い出されました。

 展示作品数は100点といいますが、もっと多く見たかったと感じたほど、ルソーの描く自然の風景は一つ一つが魅力的で、彼の独自の視点を通じて、私たちもまた自然の息吹を感じ、そこに込められた思いに触れることができました。
 フランスの田舎ってホントにいいな、と改めて思いました。

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