「モード、デザイン、ジュエリーの旅路」展 注目シルエット
パリの装飾芸術美術館ではもう一つ、「 Parcours mode, design, bijoux (モード、デザイン、ジュエリーの旅路)」展が開催されていました。
これは20世紀から現代に至るまでのファッション、クチュール、プレタポルテの傑作を紹介する特別展で、モダン&コンテンポラリーデザインに特化した常設ギャラリー、マルサン・パビリオンでの初の展覧会でした。
実は私はチュイルリー公園側にある、このギャラリーを訪れたのは初めてで、5階から9階まで、フロアーごとに何があるのか、ワクワクしながら巡りました。展示されていたのは、30体のファッションシルエットと、約100点のクリエイタージュエリーです。その新たな視点での演出は大変興味深く、印象的でした。
中でも注目したのが、次の4つのファッションシルエットです。
バルマンとアメリカ西部
これはオリヴィエ・ルスタンがバルマンで初めて手がけた2012年春夏プレタポルテコレクションで発表した豪華なルックで、ピエール・バルマンが抱いていたアメリカ西部への憧れを思い起こさせるものといいます。ゴールドの刺繍糸やチューブ、ビーズ、ストラスがあしらわれたツイル素材のジャケットとショートビスチェドレスで構成されています。
このメタリックな美学は、イギリスのデザイナー、ロン・アラッドのデザインや、ジャン・デプレによるアールデコ調のジュエリーと対比させて展示されていました。
アンドレア・クルーズとアップサイクリング
不要になった素材を再利用するアップサイクリングを代表するのが、アンドレア・クルーズのシルエットです。そのコレクションから選ばれた複数のピースを組み合わせ、廃棄衣料の切断、編み込み、裏返し、オーバープリントなど、さまざまなアップサイクリング手法を駆使してつくられています。
共に展示されていたのは、現代ジュエリーのヴェレナ・ジーバー=フックスやリサ・ウォーカーの作品です。
ステファン・ローランとブラジル
本展を代表するビジュアルに使われているのがこのドレスです。2023年にクチュリエのステファン・ローランが制作したドレスで、ショーのフィナーレを飾ったものとか。輝かしいゴールドのドレスはブラジルの守護聖人であるアパレシーダの聖母にインスパイアされたもの、金糸の布地は、映画『黒いオルフェ』に登場するオルフェウスとエウリディケのカーニバル衣装を思わせ、また、アマゾン文化のマラジョアラ様式に影響を受けた装飾は、オスカー・ニーマイヤーの作品にも通じるものといいます。
カンパーナ兄弟の家具と並んで展示されて、ラテンアメリカのバロック様式と神聖さを見事に表現しています。印象に残るドレスでした。
イッセイ・ミヤケとアート
日本人デザイナーでは、イッセイ・ミヤケの作品が目を引いていました。これは彼が1996年のフィレンツェ・ビエンナーレ「アートとモード」で発表したドレスです。プリントデザインは、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの『泉』を題材にした日本人アーティスト森村泰昌の写真をプリントしたものです。
絵画の表現、衣服としての実体、そしてそれを着る身体が一つの生きたシルエットに融合し、複雑な女性像を形作っています。イッセイ・ミヤケの「私のすべての探求は、常に動きと衣服による自由に焦点を当ててきました。着る人が最終的な形を与えるのです」の名言が胸に響きました。
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