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2024年6月19日 (水)

アーツ前橋「ここにいてもいい リトゥンアフターワーズ」展

 アーツ前橋で6月16日まで開催されていた「ここにいてもいい リトゥンアフターワーズ : 山縣良和と綴るファッション表現のかすかな糸口」展を見てきました。
 山縣良和さんは物語性のある実験的な表現の場としてコレクションを発表する「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のデザイナーであり、「coconogacco(ここのがっこう)」の代表でもあります。本展は、この山縣さんが美術館で開催した初の個展でした。これまでの集大成とともに、ファッション表現の「いま/ここ」を表わす新作がインスタレーションされていました。

 展覧会は一篇の物語の世界を探検でもしているかのように6つの章で構成され、夫々の章に思いがけない発見があって、好奇心をそそりました。とくに気になった作品を紹介します。

第0章 「バックヤード」
 ここは入ってすぐのフロアで、無料のエリアです。

20240601104410imgp55561   過去のコレクションで作成されたドローイング、絵画、写真、映像、書籍、布地などの作品や素材が展示されています。

第1章 「神々、魔女、物の怪」
 ブランドの原点ともいえる神話の世界です。
 20240601105304imgp55721  3.11からの再生を祈った《七福神》が階段の中央に据えられていました。福をかき集める熊手が表現されています。山縣さんの存在を世界に知らしめることになった記念的作品です。

20240601105444imgp55781  魔女や妖怪などダークなキャラクターが出現します。とはいえ怖くて悲しいイメージではなくて、ちょっとドジでチャーミング、日常的存在の魔女、誰もが何時でも魔女になりうるという想いを込めてつくった作品とか。

20240601105540imgp55831  焼け焦げたボロの山は、《After Wars》のコレクションからの1点です。東京都庭園美術館で行われたショーに登場したことが思い出されました。山縣さんは、「父親が長崎出身のせいか、戦争の記憶とも向き合うべきという感覚が昔からあります。」とおっしゃっています。

第2章 「集団と流行(はやり)」
 フリーマーケットのイメージから集団性が生み出すエネルギーに着目した展示で、同調性バイアスが強い日本社会の集団と流行の危険な側面を表現したコーナーです。

20240601110138imgp55901   新型コロナウイルスの感染爆発も流行(はやり病)です。布団に眠る人の姿は病に倒れた人を連想させました。

20240601110446imgp55961  2019年に上野の噴水広場で行われたコレクションからの作品《フローティング・ノマド》です。内戦で住む場所を失ったシリア難民を彷彿させるショーでした。「ここにいてもいい」というタイトルとは真逆の「ここにいられない」という世界の深刻な状況を写した作品です。

20240601110814imgp56031  記者会見の場面を表現したもの。スキャンダルが起こると一斉にヒステリックに集団で叩いてしまう、日本だからこそ起こりうる光景がとらえられています。

第3章 「孤立のトポス」
 コロナ禍で、東京を離れて長崎の島々で制作された《Isolated Memories(孤立した記憶)》がベースのインスタレーションです。
 20240601111056imgp56141  軽トラックには、狸や犬などの動物たちがいっぱい乗り込み、その後にも動物たちの長い行列が続く、印象的な展示でした。

 山縣さんは「ファッション表現は、自分自身を客観的に見つめ、研究しながら内なる自分像を外に出す行為です。このプロセスは、自分の自己イメージに関連する人間像をクリエーションやデザインを通じて変えていく作業でもあり、自分の変化しやすさを体験することにもなります。」と述べています。だからここではあえて人間ではない動物たちを主役にしたのですね。

第4章 「変容する日常」
 広い展示室には誰かが使い古した家財道具がたくさん持ち込まれていて、より暗い、不穏な気配が漂っているように思われました。

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 展示されていたのは、ウクライナやガザ、日本の能登の震災など、日常が簡単に崩れる現実を反映したもので、アーツ前橋に非日常の生活感を持ち込む試みで行われたといいます。近代の電化製品や空き家の食器棚、放置自転車などを設置し、リトゥンの考える「家」を仮設。そこにはナマハゲのようなキャラクターや人間のようで人間ではない存在がいます。13年前の東日本大震災で美術館が避難所になったエピソードもヒントに、非日常が日常に侵入するイメージを表現したとのことでした。

Img_78231  Img_78241 廃棄された布で仕立てた服です。
 マネキンが箒を手にゴミを集めているポーズも面白いです。

 右のカラフルなルックは、鳥取伝統の因幡の傘踊りで用いられる装飾的な傘をさしています。

 鳥取出身の山縣さんの故郷への想いが伝わってくるような作品です。

 

第5章 「ここにいてもいい」
 展覧会タイトルと同じ「ここに いても いい」は、これまでの章と異なり明るい雰囲気です。タイトルには「此処」や「個々」の意味が含まれ、自己の個性や生きる場所を肯定しようとしています。文字「い」と「こ」の形からは子供の成長を連想し、生活の中のパーソナルな出来事が重視されているようです。

 最近、女の子が誕生した山縣さん、仕事や育児で日常が忙しくなる中、社会問題への関心が薄れ、自身の目の前の出来事からリアルな作品を創作するようになったそうで、映像には子供を撮影した動画を使用し、家族の尊さや成長への願いを込めたといいます。 

Img_78031  中央にインスタレーションされていたのは、赤/白のギンガムチェックのドレスです。その上には、子どもの幸せや成長を祈る、日本古来の人形伝統文化「つるし雛」が飾られていました。

 家族を大事にしながら、ファッション表現の新たな物語を紡いでいく、山縣さんの決意が感じられたすばらしい展覧会でした。

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