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2024年6月13日 (木)

「コットンの日」イベント ⑵ 福田 稔氏 特別講演

 今回の「コットンの日」イベントでは、昨年に続き特別講演にA.T. カーニー株式会社シニアImg_7331 パートナー 福田 稔氏が登壇、『2040年アパレルの未来 ~「成長なき世界」で創る、循環型・再生型ビジネス~』をテーマに講演しました。
 下記、その概要をまとめましたので紹介します。

1. アパレル市場の変化
  ウクライナ戦争を背景とするインフレの加速や、コロナ禍に伴う二極化の進展、人々の価値観が職場中心から個人や家族を中心とした価値観へと移り変わる中で、下記3つの変化があるといいます。
① 多く作り、新品を売る時代の終焉
 インフレの影響を除いた実質ベースでみると、コロナ前、2019年の世界アパレル市場規模は248兆円でしたが、まだ戻っていません。2027年までの予測を見ても、ほぼ0.3パーセントと横ばいで、量としてはほぼ増えていません。世界の新品アパレル市場は成長力に乏しく、新品を売る時代が終わりを迎えつつあることを示しています。これには中国とアメリカの成長率が下方修正されたことが大きく、日本は実質ベースで完全にマイナス成長に入っています。価格帯別にみると、ラグジュアリーにはまだ成長余地が存在します。
②中古市場の世界的な拡大
 新品が伸び悩む一方で、中古品市場は世界的に拡大しています。 国内でも物価高、サステナビリティ意識の高まりを背景に中古衣料品市場が成長。世界のアパレル市場規模の推移予測では2023年は約30兆を超え、2027年には50兆を超えると予測されています。2027年の新品市場は約250兆と言われていますから、市場の6分の1が中古品になると予想されています。日本でも同じような状況で、日本の中古品市場は既に4000億を超え、年10パーセント以上の成長率で伸びています。
③ウェルネス関連市場の成長
 アパレル全体が横ばいの中で、ウェルネスに関連するスポーツやアウトドアなどは大きく伸びています。背景にはコロナ禍を経た価値観の変化があります。コロナ禍の3年間、日本では幸福度が上昇し続けていますが、これは職場中心から個人や家族中心の価値観への変化があったからと推察されます。

2. アパレル業界のサステナビリティの現状と対策の状況
 アパレル業界は、環境汚染、資源の無駄遣い、人権侵害など、多くのサステナビリティ関連の問題を抱えています。国連はこれらの問題を糾弾しており、特にCO2排出が大きな影響を及ぼしています。地球温暖化は深刻な問題であり、過去50年間で地球の平均気温は急激に上昇しています。このまま対策を講じなければ、2100年には最悪のシナリオで地球の平均気温が+6.4℃上昇すると予測されています。最善のシナリオでも+1.5℃の上昇が見込まれています(国連IPCC)。
 温暖化による異常気象は各地で発生しており、グローバルなGDPにも大きな損失を与えています。しかし、現行の規制枠組みでは1.5℃以上の上昇を抑えることは難しく、さらに厳しい規制が求められています。温暖化による海面上昇は、例えば荒川の洪水リスクを増大させています。アパレル業界のCO2排出比率は全体の8%に達しており、業界全体でこの問題に取り組む必要があります。

 CO2排出量の大部分は、原料調達から縫製の工程で発生しており、生産量の増加に伴って排出量も増加しています。世界のアパレル業界では、2010年代からサステナビリティへの意識が浸透し始め、特にEUの規制強化によってその傾向が加速しています。
 EUは2022年に「EUテキスタイル戦略」を策定し、循環型へのシフトに向けた様々な規制枠組みを検討しています。先進国を中心とした大量生産・消費は、途上国に多くの社会問題を引き起こしています。特にアフリカでは、中古衣料品の露店市場が形成され、安価ではあるものの自国の繊維産業が育たないという課題が存在します。大量に運ばれた衣料品の一部はゴミとなり、スラム街などでゴミの山が形成されています。
 2023年、EUはアパレル・繊維業界が循環型に移行するためのTransition pathwayを発表しました。特にデジタルプロダクトパスポート(DPP)の義務化は市場に大きな影響を与えると予測されています。EUでは既に小売業界において環境負荷表示が始まっており、消費者からも支持を得ています。例えば、カルフールでは環境負荷表示が行われており、アパレル業界でも普及すれば大きな変革が期待されます。
 フランスでは昨年、衣服の廃棄を禁止する法律が公布され、今年から段階的に施行されています。また、2023年にはスウェーデンやオランダでも同様の法律が導入されています。フランスでは2023年1月より、リサイクル素材利用率、リサイクルの可能性、トレーサビリティ、マイクロプラスチックファイバーの含有有無を情報提供事項として義務付けています。ユニクロなどはこれに対応しています。
 また、フランスではリペアにかかる費用を補填する制度を2023年10月から導入しています。この支援の原資は生産者や輸入者に課され、拠出額は2023年から2028年までの5年間で1億5400万ユーロ(約240億円)に上ります。
 ニューヨーク州ではアパレル企業に対して環境負荷低減に向けた取り組み状況の公開を義務付ける法律の導入を検討中であり、カリフォルニア州でも同様の動きがあります。

 フランスや欧州においては、実態を伴っていないにもかかわらず環境に配慮した製品・サービスであると見せかける「グリーンウォッシュ」を規制する動きが加速しています。2022年9月、オランダ当局はH&Mに対して、コンシャスラインをグリーンウォッシュとして賠償請求し、欧州での販売停止が波紋を呼びました。他の欧州諸国でも公的機関によるグリーンウォッシュに関する調査や警告が増加しています。
 例えば、ウルトラファストファッションの英ASOS(エーソス)は、好調な業績にもかかわらずサステナビリティの観点から批判を浴び、株価は下落しました。ASOSは2030年カーボンニュートラルを宣言していますが、2022年7月にはグリーンウォッシュの疑いでイギリス当局の捜査が開始されています。欧州では「脱炭素」という言葉を安易に使うこと自体がグリーンウォッシュと見なされる可能性があり、取り組みの中身と質が問われています。
 その最たる例として、カナダのルルレモンが見せかけの環境配慮を主張しているとして、カナダの規制当局に提訴されています。サステナブル/ウエルビーイングなイメージがある企業でも、イメージと実態に矛盾があると、グリーンウォッシュと指摘されるリスクがあります。数年後には、第三者認証が必要なサステナビリティレポートの報告が企業に義務付けられる見通しです。

 日本でも経済産業省と環境省が2023年に「繊維製品の資源循環システム検討会」を設置し、現在は「産業構造審議会繊維小委員会」に引き継がれ議論が継続しています。2023年末には、繊維製品の資源循環システム構築に向けた課題と取り組みの方向性が示されました。今年、繊維製品における環境配慮設計を促進するために「環境配慮設計ガイドライン」が作成・発表されました。このガイドラインでは、繊維産業のサプライチェーンに従事する各事業者が取り組むべき環境配慮設計項目、評価基準や評価方法が設定されています。
 欧州で先行する規制強化の動向を踏まえると、今後日本でも新たなサステナビリティ対応が求められる可能性があります。

3. 資本主義と消費社会の行方
 ケイト・ラワースが提唱する「ドーナツ経済学」は、社会と地球の限界を尊重しながら経済を運営する必要性を強調しています。資本主義は地球の環境容量を考慮したモデルへと移行すべきです。特にアパレル業界は、バージン素材を使った大量生産が環境に多大な負荷をかけていることを認識する必要があります。
 現在、世界のマテリアルフットプリント(資源消費量)は増加の一途をたどり、地球の環境容量とされる500億トンの2倍に達しています。GDPとマテリアルフットプリントの成長率は密接に関連しており、アパレル・繊維産業におけるバージン素材の使用量も増加しています。循環型モデルへの移行が求められていますが、まずはバージン素材の使用量を抑え、リサイクルを促進するために素材自体の見直しが必要です。
 現状の技術では、混紡素材のリサイクルは難しく、3種類以上の混紡が困難です。そのため、単一素材やリサイクルしやすい素材へのシフトが求められます。現在、手放される衣類の中でリユース・リサイクルされる割合は約35%に過ぎず、クローズドループ(循環型)のモデルを構築することが業界の課題となっています。
 例えば、スイス発スニーカーのOnは使用済みのランニングシューズを回収し、素材を100%リサイクルする取り組みを開始しました。さらに、パーツ数を抑えた100%バイオベースの素材を使用したランニングシューズを販売しています。サブスクサービス「Cyclon」では完全リサイクル可能なランニングシューズも提供しています。同様に、東リはタイルカーペットの完全循環型モデルを開発しました。このようなモデルをどのように横展開していくかが今後の課題です。

 また、環境再生型(リジェネラティブ)のアプローチも必要です。食品大手のネスレは、2030年までに環境再生型農業からの調達を50%まで増やすとしています。サステナブルを超えたこのアプローチは、農地の二酸化炭素吸収量を増やすことを目指しています。繊維アパレル業界でも、パタゴニアやステラ・マッカートニーが環境再生型農業で栽培されたコットンを使用した製品を発表しています。綿花の栽培においても、このアプローチが重要なキーワードとなるでしょう。

 リーディングプレーヤーたちは、スコープ1/2/3の削減に向けた目標を掲げ始めています。例えば、ザラの親会社Inditexは、2018年から2022年にかけて売上を25%増やす一方で、スコープ3のCO2排出を6%削減することに成功しました。CO2削減に向けては、スコープ3の削減が重要であり、生産量の削減、製品仕様の再設計、ブランドポートフォリオの変革が必要です。

 さらに、現時点では新規植林・再植林が炭素除去の有力オプションであり、「排出量を減らす」ことが最も重要です。とはいえ気候変動の責任の大部分は先進国にあり、今後規制が強化されるほど、グローバルサウスからの反発が拡大する可能性があります。グローバルサウスのGDPは2040年前後に米国や中国を抜く可能性があり、世界は多極化と混迷へと向かうでしょう。
 現在は「株主資本主義」から「公益資本主義」への移行期です。新しいイデオロギーの下で、新たな繊維・アパレル産業の創造に取り組むべきです。消費者も徐々に消費行動の中でサステナブルを意識するようになっています。

 最後に、ライフスタイル企業に求められる企業経営の在り方が大きく変化する中、勝ち残るためのポイントを6つ、挙げました。
●大量生産モデルからの脱却:大量生産・大量消費を前提としたビジネスモデルからの脱却。衣服を長くリペアしながら着る時代へと変わっていく。
●循環型・再生型へのビジネスモデルのシフト:循環型のクローズドループを作り、バージン素材の利用を減らすことが喫緊の課題。中期的には循環再生型の要素を取り入れ、バリューチェーンに組み込み、環境再生につなげることが必要。
●カーボンニュートラルに向けた継続的な取り組み:アパレル産業はサプライチェーンの改善が必須。特に気候変動対策、カーボンニュートラルは不可欠。
●5R(リペア、リユース、リデュース、リサイクル、レンタル)を通じたライフタイムの延長:既存の製品に対して5Rを実践するのではなく、5Rを前提とした製品デザインや商品計画に変えていくことが重要。
●ESG対応:上場企業は株価を意識した無理な売上成長を追求すべきではない。売上・利益よりもESGスコアの向上を目指すことが株価の伸びにつながる。
●KGI/KPI改革:従来の経営指標を再設計し、幸福度や環境負荷を重視したKPI設計が必要。 

 以上のように、「企業経営の在り方が大きく変わる端境期にあることを理解し、適切な対応を進めていくことが重要です」述べて、講演を結ばれました。

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