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2023年5月17日 (水)

義肢装具士 安田伸裕氏講演会「義肢装具の世界」

 一昨年開催された東京パラリンピックでは、世界の義足アスリートの存在感が印象的でした。彼らを支えているのが義肢装具士です。
1_20230529112701  先般、義肢装具士で楠岡義肢製作所株式会社執行役員 兼 製造マネージャー 安田伸裕氏による「義肢装具の世界」と題したセミナーが、ファッションビジネス学会FashionGood lab.とユニバーサルファッション協会の共催で行われました。
 義肢装具とは義肢と装具を組み合わせた用語で、義肢とは、元の手や足の機能と形を復元するため装着、使用する人工の手足のこと。装具とは、主に治療や症状の軽減を目的として装着する器具で、治療やリハビリ、日常生活の補助などの目的で使用するものや、予防や矯正を目的とするものもあるとのことです。
 その市場規模は2020年に2,183億円で、この30年で約1.5倍に拡大したといいます。ちなみに一口で義肢装具といっても、義肢1-2割、装具8-9割と、装具の割合が圧倒的に高く、その大半は靴のインソールや、コルセット類だそう。ユーザーは高齢者中心ですが、高齢になる前の世代が身体ケアを考える中で装具を使う層が増えているといいます。
 実際、私の周りにも、怪我や病気、事故、高齢化など何かしらの要因で装具を身につけている、あるいは身につけていた方が多数いらっしゃいます。私自身も「明日は我が身」と思うことがあり他人ごとではありません。その最新事情に関するお話を伺える機会とあって、興味津々でした。

 まず義肢装具のビジネスモデルについて。
 大きく二つあり、一つは、治療用義肢装具で、怪我等に対する治療で用いるもの。背骨骨折時で使う体全体を支えるものなど、見た目もハードですが、かつてのギプスと違いお風呂にも入れるそう。早期回復してリハビリするための補装具で、医師の指示が入り、補装具算定基準に則り、健康保険制度を用いてつくるものです。
 もう一つは、更生用義肢装具です。治療が終わって、障害が固定した後の日常生活の中で必要となる義肢装具で、バリエーション豊富、装飾性の高いものもあります。身体障害者自立支援法により、義肢装具の公費負担分 + 利用者負担額でつくることができるとのことです。
 ここでとくに義足に関して興味深い指摘がありました。日本では実際の足に近づけ目立たなくさせることが基本的価値観ですが、海外では逆に義足を見せてパフォーマンスとしてこういうことができると発信しているケースが多々見られるそうです。日本の隠す文化がこんなところにも表れているとは、おもしろいですね。 

 次に氏の活動について。
 ユーザーがいつも身に着けていたくなるような、機能性を前提にした装飾性やデザイン性の高い更生用義肢装具の実現を目指して活動中。そしてその軸となっているのが「京都義肢デザイン」プロジェクトで、「デザイン・ウイーク・京都」に参加したことをきっかけに立ち上げたとのことです。伝統工芸の要素を取り入れ、ものづくりを素材起点からデザインすることで、義肢装具のスタンダードなデザインを生かせる、との思いもあってスタートさせたといいます。
 製作のポイントは次の3つ。
1. 伝統工芸 × 義肢装具。例えば藍染や西陣織金襴製の義肢装具やそれを入れる袋など。
2. アート × 義肢装具。アーティストと義肢装具デザイナー、ユーザーの共同製作による意匠性の高いデザイン。
3. サステナブルなデザイン。とくに素材・材料面での持続可能な取り組み。例えば木屑使いで、石膏に木屑を混ぜることで、石膏量を減少、軽量化や臭いの面など新たな価値が生まれているといいます。また石膏モデルも捨てることなく次に利用する仕組みづくりを行っているとも。

 またタスク(やるべき仕事)として次の3つがあるといいます。
1. デザイン費用の在り方。健康保険や身体障害者福祉法による支援はあるものの、デザイン性のある装具の提供は困難な場合が多い。ユーザーの費用負担軽減に、制度の変更が必要。
2. 循環型モデル。素材を生かし廃棄される義足を新たな価値につなげる体制づくり。
3. 義肢装具のデザインが目指す社会実装。自社だけでなく他社と協力して社会全体に取り込んでいく。

 さらに未来に向けて。
 今後、義肢装具はファッションの一部になると考え、その可能性を探っていくと強調。
 氏は自身が考案したモジュラータイプのシャツを紹介しました。義足の製法で主流となっているパーツ交換可能なモジュラー式をヒントにデザインしたシャツで、丈の調整やディテールの取替え、付けはずしなどがしやすくなっているといいます。
 ファッションに義肢装具の考え方を導入したり、逆に義肢装具にファッションのアイディアを反映させたり。義肢装具の世界はますます広がりそうです。
 義肢装具をファッションとしてどう展開できるか、誰もが楽しめるデザインを目標に、「義肢装具 × デザイン」の普及活動を行っていくと語って、講演を締めくくりました。

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