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2020年12月 8日 (火)

深井晃子氏 海を渡るきもの-想像力と創造性を刺激する力

 このほど京都服飾文化研究財団名誉キュレーター深井晃子氏によるオンラインレクチャー「Kimono Crossing the Sea─Its Power to Inspire Imagination and Creativity (海を渡るきもの-想像力と創造性を刺激する力)」が、ロンドン日本文化センター主催により行われました。1_20201210194401
 これはこの10月末まで開催されていたロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館の「Kimono: Kyoto to Catwalk (京都からキャットウォークへ)」の記念イベントです。レクチャーに先立ち、きもの学芸員のアンナ・ジャクソン氏が展覧会を簡単に紹介。深井氏が「きものの美を鑑賞するだけではなく文化的背景や広がりを見て、ファッションとしてのきものにも目が向けられている」と感謝の意を表して、講演がスタートしました。
 その内容を簡単にまとめてみましょう。
 
 きものの形は江戸時代からほとんど変わっていません。変化したのは柄だけです。きものは今では特別な場でのみ着るものとなってしまいました。とはいえ若い世代の間では魅力的なものに映っているようです。世界的なファッションデザイナーたちも様々な角度からきものに着目しています。
 このきものがかつて欧州で旋風を巻き起こした時代がありました。それは日本が開国し、ジャポニスムの日本熱が吹き荒れた19世紀後半です。深井氏は当時の進歩的な画家やデザイナーたちがきものを日本表象のわかりやすいツールとして使い、何を引き出し何を創造していったのか、「きものの創造力」をテーマに豊富なビジュアルを用いて分かりやすく解説されました。

 まず事例として挙げたのが、ティソの「湯上りの日本娘」の絵とバートンが描いた「ショージ・スミス夫人」の上品なきもの姿です。二つの絵の共通点はきものの「ゆるやかさ」にあると指摘します。帯を締めなければきものはゆるやかな衣服です。ルーズさはきものが持つ本質的な特徴でもあるのです。絵に見るように、きものはリラックスするのに適したラウンジウェア(部屋着)として人気を集めたようです。スミス夫人のきものにはボタンが付いている、いわば東西のハイブリッドきものだったそうで、興味深い発見です。
 鎖国を解いた日本は万博に出展し、1867年のパリ万博で日本ブームに火が付きます。芸術家や文化人たちは、ジャポニスムをオリエンタリズムの流れに続く新しいバージョンと捉え、中でも日本の明快なアイコンとなったのが、きものだったといいます。絵画やイラストにはきものを着た女性が頻繁に登場するようになりました。ところがその意味について追及されることはほとんどなかったそうです。というのもこうした作品は玉石混交で、ときに異国趣味の質の悪いジャポニスムとみなされたこともあったようなのです。
 当初、ジャポニスムは表層的な日本趣味の引用だったといいます。しかし画家たちは次第に異国趣味を超えて日本の特質に気付くようになります。突破口を切り拓こうとしていたのがモネたち印象派です。このとき彼らが出会ったのが日本美術の装飾性で、浮世絵が果たした役割は大きかったと言われています。そしてきものもその一端を担ったのではないかと推察されているのですね。
 きものの平坦な色彩空間や装飾性を使った画面構成で、新たな造形世界を先取りしたマネやホィッスラー、きものから抽出された装飾的要素が画面の中に完全に溶けこんでいるマチスやクリムトの作品も印象的です。

 次にきもの独特のゆるやかさに戻って、その独自性について語られました。ゆるやかさはきものが平面的な構成であることに起因します。平面構成なので体型に無関係で、ジェンダーニュートラル、つまり単一の形です。違いを出す鍵は、生地の表面デザインにあります。それ故にきものは洗練された色彩や柄、絵画的な装飾性を持つことになりました。それは西洋の画家たちの感性に訴え、新たな創造への道へと誘っていったのです。
 ゆるやかさやきものの平面構成はファッションデザイナーたちにも重要なヒントを与えたといいます。20世紀に入ってファッションに現代服への動きが起こりますが、このときデザイナーたちが向き合った命題はコルセットから女性の身体を開放することでした。ポール・ポワレは古代ギリシアの肩から布をかける直線構造の服とともに、きものにも注目し、女性の身体をコルセットから解放しました。彼はきものが西洋の服と根本的に構成が違う服である点を見抜いていたのですね。
 それをさらに推し進めたのがマドレーヌ・ビオネです。新しい裁断方法で知られるビオネはシャネルとともに1920年代のファッションリーダーでした。深井氏は彼女がデザインしたシンプルなチューブ型ドレスを示し、そこにもきものの影が色濃く投影されているといいます。
 
 最後に海を渡ったきものに、西洋の人々が見たのは、異国の美や洗練だけではなく、きもののゆるやかさ、それを生み出す直線構造、平面性、またそこに展開する絵画的な装飾性など、きものが持つ本質的な特質だったと断言。きものは伝統を抜け出し新しい方向を模索していた革新的画家やデザイナーたちに、大きなひらめきを与えたと強調しました。
 きものはこれからも新しい創造への誘惑性をかりたてていくことでしょう。ぜひそうあって欲しいと願ってレクチャーを締め括りました。

 なお「Kimono: Kyoto to Catwalk (京都からキャットウォークへ)」の動画(6分間)が公開されていますのでご紹介します。

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