WEBセミナー「革新と企業価値向上をどう両立させるか」
「ニューノーマル」という前例のない事態に、どう適応し、成長戦略を描くか。経営をテーマにしたWEBセミナーがしきりと開催されています。
その一つが丸井グループ代表取締役社長代表執行役員CEO 青井 浩氏と一橋ビジネススクール教授 楠木 建氏による「革新と企業価値向上をどう両立させるか」と題した対談です。青井氏に楠木氏がインタビューする形式で進行しました。
丸井グループはコロナ禍も、他の商業施設の苦境をよそに今期、9期連続増配しています。その経営への考え方が興味深く、概容をまとめてみました。
冒頭、青井氏が、丸井グループの企業価値の中核にある「共創経営」について語ります。
この言葉は「すべての事業プロセスにお客様の視点を取り入れること」であり、創業者の「信用はお客様とともに創るもの」に由来しているといいます。近年はこの考え方をすべてのステークホルダーに広げ、ステークホルダーとともに価値をつくる「共創経営」を進めているとのことです。
ステークホルダーは、お客様、お取引様、社員、株主・投資家、地域・社会、それに一昨年から加えた将来世代です。これらすべてのステークホルダーが重なる部分を企業価値と定義し、この部分を広げることが企業価値の向上 と考えているといいます。
一般にステークホルダー間の利害は対立しがちです。しかしよく見ると社員教育など利益が一致する部分もあるのです。そこで丸井グループでは短期的ではなく長期的視点で、利益の対立よりも調和をステークホルダーとの対話を通じて見つけ出そうとしているといいます。
最近よくいわれるステークホルダー資本主義、「共創経営」はこの考え方を企業経営に落とし込んだともいえるそう。
まず楠木氏が「ステークホルダーのためにというが、どの順番でステークホルダーに貢献していくのか」と質問すると、青井氏「いの一番はお客様、次が株主・投資家」とのこと。
次に「エポスカードは規模が小さいが、利益率は圧倒的に高い。その中身は?」と問われて、青井氏は「創業は家具の月賦販売だった。そこは丸井の原点であり、元々金融と小売りは一体だった。小売りの視点からカード事業を手掛けていることもあり、エポスゴールドカードは年会費無料。無料なのは丸井グルーブのみ」。
さらに楠木氏が「丸井は取引先にも新しく売上をつくる機会を提供している。ESGについての考え方は?」というと、青井氏は、ESGのE(環境)の観点から、バックミンスターフラーの富の定義「富とは将来の世代に残せる未来の日数である」の言葉に衝撃を受けたことを話し、「環境を守るとは将来世代のための倫理的責務のような取り組み」と理解したそう。再生エネルギーのベンチャーである「みんな電力」と資本業務提携し、ESGがビジネスにもつながるという取り組みを目指しているといいます。
最後に、楠木氏が「コロナ騒動でどのようなインパクトがあったか。危機のときこそ、それまでの実力や戦略の優劣がはっきりする。『共創』という長期のストーリーはコロナ禍のもとその価値を大きくしているように思う。実感しているところがあったら教えて」と締めを促します。
これに対する青井氏の発言に、私も感動しました。それは次のようです。
「緊急事態宣言で2か月間全店舗を閉鎖した。厳しい状況下、取引テナントが困難に陥った。丸井グループは売上粗利方式ではなく、家賃をいただく不動産型のビジネスモデルに転換していることもあり、契約上、家賃をいただくことができる立て付けになっている。しかし一切受け取らない全額免除こそフェアと考え、2か月分を免除した。株主からすると債権放棄だが承認してもらった。取引先は喜んだが、一番うれしかったことは、社員が『共創』を口先だけではなく本気でやっているということを感じ取ったもらえたことだった」。
お話しを伺って、丸井グループの「共創経営」はまさにホンモノ! 改めて青井社長の姿勢に共感しました。
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