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2020年7月 3日 (金)

対談 佐々木康弘×坊垣佳奈「D2Cが小売りの主役になる日

 D2C (DtoC メーカー直販)がコロナショックもあって需要が急激に伸びています。
  先般WEBセミナーで、TAKRAMディレクター佐々木康弘氏とマクアケ共同創業者の坊垣佳奈氏によるJpg 、「D2Cが小売りの主役になる日」をテーマにした対談がありました。
  D2Cが小売業界をどのように変えていくのか、その成功の鍵は哲学と倫理にある、といった興味深い内容でした。下記にその概要をまとめてみます。
 
 まずコロナショックによってD2Cはどのように変わるのか?
 佐々木氏は、「普遍的なものになっていく」といいます。「EC比率が5%から16%になるのに10年かかったが、コロナにより8週間で16%が27%になった。コロナはまさに未来加速装置のようなもので、ハインツはハインツ・トゥ・ホームを3週間で始めたし、ペプシもスナックス・ドットコムをスタートさせるなど、大企業がどんどんD2Cに乗り出している。これからはあらゆる小売業がD2Cを手掛けるようになるだろう。コロナでデジタルと顧客が半強制的につながった。これはアフターコロナもアセットとして残り続ける」。
 坊垣氏は、「D2Cをスタートアップではない伝統的な老舗企業が始めたことが象徴的」といいます。「従来、卸に出していた酒蔵が、酒屋が店を閉じたため直接オンラインで売るようになった。このようにこれまで業界的にやりづらかったことが日本には多くあった。コロナを機に非合理的を合理的に変えるチャンスが来ている。こういうことが各業界で起きている気がする」。
 佐々木氏は、「既存の流通に配慮してD2Cをやらなかった業界は多いと思う。これまでは店舗が主でD2Cは副だったが、D2Cが本丸に上がりつつある」。
 ここで話題となったのがアパレルで、アパレル業界はコロナの影響で廃業になっている業界の第3位にランキングされているといいます。ちなみに1位と2位は、それぞれ飲食とホテル業界です。
 坊垣氏は、「試着して買うと思われていたアパレルが、インスタライブを始めるなど、一気にオンラインにシフトするようになった。自分もそうだが、女子たちはみんなオンラインで服を購入している」。「オンラインでより買いやすくすることが進んだ業界がアパレルだ」といいます。
 
 次にD2Cとはそもそも「何か」です。
 佐々木氏は、「D2Cの本質は、ただのECではなくモノを買う以外のコミュニケーションをどれだけふくらませられるかにあり、それがこれからのD2C企業に問われている」といいます。「モノの良さを押し出すコミュニケ―ションは否定しないが、つくっている人の背景のストーリー、製造している人の顔が見えることも大事。最近はBLM運動などに見るように、社会的メッセージを発信することも増えている。ただしメッセージを出すだけではなく日々の行動をどうやっているのか、真実が沁み出ているメッセージなのかどうかが問い質されている」とも。
 これを受けて坊垣氏は、「オンラインコミュニケーションのコンサルティングのニーズが上昇している」といい、「コミュニケーションに必要なのは“誠実さ”であり、一本筋が通ったものがないと、ボロが出る」と話します。 
 佐々木氏は、「モノをきちんと理解して共感してもらって購入することが大切になっている。キーワードは坊垣さんの言う“誠実さ”と思う。そうであれば、これまでは知り合いだけに売っていたのが、D2Cにより昔の商店街のように、クチコミで広がる。長野県の名産品などをD2Cで購入するなど、敷居が低くなって、買った本人も多幸感がある」。
 
 またブランドの軸となる世界観について、軸とは宗教性なのか倫理性なのかといった話も出ました。
 佐々木氏は、「消費者のモチベーションはマズローのいう5段階欲求の最高段階である自己実現のその上の自己超越に来ている。企業に要望されるのはeコマースだけではない社会的倫理であり、メッセージを届けるだけでなく、心からの共感でアクションさせていくことが求められている」。
 坊垣氏も、「ブランドは“売れればよい”がよしとされない空気があって、これが一気に広がった。成功者の定義が変わり、何を自身が叶えたのか、そこには社会のためという要素が入っていることが大切で、その意識は地球環境への貢献などをみても、若い世代ほど高い」。
 
 分断が激しさを増すアメリカも話題に上りました。
 佐々木氏は、「コロナはイコライザー"equalizer(均衡を保つもの)"という人がいる。確かにウイルスは人を選ばない。しかし今起きている現象はイコライザーではないと思う。米国では中間層が減少して、経済的分断が大きくなっている」。
 これに対して坊垣氏は、「昔より正義感が強まっている。平等意識が高まり、政治と民衆の距離が近くなっている気がする。日本もテラス事件のように動いたら変わる感覚が少し出てきていると感じている」といいます。
 佐々木氏もこれに合わせるように、「思想的格差が少なくなり良い意味でいい方向へ向かっている」。そして「東京圏を“東京国”、地方自治体を“オンライン国”とすると、田舎と思っていた“オンライン国”がコロナで成長している」という面白い例え話を披露。コロナは地方と東京の差を縮めたといいます。
 
 さらにこれからのブランドは「“鏡”から“窓”へ」に言及。
 佐々木氏は、「ビジョンが重要であり、判断軸のある経営が求められている。ビジョンがあれば社員が目指す道筋も整えられる」といい、ビジョン達成の在り方として、「これからのブランドは、マーケットを分析しそれを反映する“鏡”から、消費者との間に壁がない“窓”が開いている状態にならないといけない」と持論を述べます。「透ける壁の向こうでどういう人がつくっていて、オフィスの中にはなにがあるのか、見える状態にしていくために不可欠なのかミッションやビジョンで、それがないとバラバラになる」と、またしてもビジョンの重要性を強調しました。
 坊垣氏も、「カスタマーサポートの返信の一つであっても、経営判断と紐づく状態をつくっていかないとブランドの一貫性がなくなる。組織経営に一貫性を持たせるビジョンやカルチャーは必須」と応じます。
 
 今後のD2Cサービスとは?
 佐々木氏が挙げたのが、エクササイズ・エアロバイクの“ペロトン(Peloton)”。自宅にいながら非接触でトレーニングできて、しかもオンラインで世界中の人々と共有する楽しさがあり、アメリカで大人気のブランドになっているとか。
 坊垣氏は、視点を変えて「レガシーな業界が手がけたら上手くいくかも」といいます。佐々木氏も、「D2Cはこれまでスタートアップが中心だったが、今では大手老舗も取り組んでいるし、小さなコミュニティ向けにやっているのもある。いろいろなタイプが生まれてくると思う」と。
 未来的D2Cといっても、坊垣氏によると、それは「新しいモノではなくあるべき姿だったみたいなモノで、特別感は持っていない」。佐々木氏も「突き抜けたものが生まれるというよりは、いろいろなところに染み渡るように広がっていく」とみているそう。
 日本からグローバルブランドを生み出すために、佐々木氏は「マインドセットの変更が大切」であり、「プロダクツの意味を拡張する必要がある」といいます。
 坊垣氏は、「海外から賞賛されるレベルのものをつくる技術がいろいろなエリアに残っている。それを言語化して表現する技術とそのこだわりをコミュニケーションにも発揮させることが必要不可欠。しかしその人たちができるかというと、できないと思う方がよくて、そこは割り切ることが肝要。こだわってモノづくりする精神と世の中に発信する技術は、真逆を向いている。だから外部にサポートを依頼することはやむを得ない選択」と主張します。
 
 最後に佐々木氏が、「D2Cプレイヤーに要求されるのは、企業家の思いを純度100%で届けることがもっとも重要。元々何をしたいのか、届けた相手をどういう感情にしたいのか、そういうところの磨き込みがあれば後は何とでもなると思っている。つまりは最初の問い、哲学に戻るということ」と述べて、締め括りました。
 
 「あらゆるブランドがD2C化する」、その意味をようやく理解できたかな、と思う対談でした。

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