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2019年8月10日 (土)

「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン」展 

 先日、三菱一号館美術館で開催中の「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」の内覧会に参加しました。
 本展はプリーツドレス「デルフォス」で20世紀初頭の服飾業界で支持され、近年世界的に注目されているマリアノ・フォルチュニにフォーカスする初の企画展です。
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 担当学芸員の阿佐美淑子さんが、「青い日記帳」のTakさんをナビゲーターにギャラリートークされました。これによると、フォルチュニは総合芸術家であり科学者でもあるという、まさに天才!でした。私は実はファッションデザイナーとしての顔しか知らなかったのです。阿佐美さんも最初はそのように思われていたそうです。 ところが実際は、絵画や舞台芸術、染色、写真などあらゆる芸術の分野で活躍し、プリントやプリーツの機械、照明技術なども開発した発明家だったのです。

 Img_54341jpg 右の天井の照明器具もフォルチュニの作品です。
 精巧なつくりで手作りだそう。
 大小あって、これは小さい方です。

 本展の開催にあたっては、ヴェネツィアのフォルチュニ美術館による全面協力があったといいます。このため資料が多岐にわたり、何を重点的に展示するか、阿佐美さんも熟考されたそうです。結局、服飾を軸とすることでまとまり、絵画や版画、写真、舞台関連作品、デザイン関連資料などの各展示室には必ず一体、「デルフォス」を展示して、服飾作品に焦点を当てていることを暗に表現したといいます。Img_54561
 
 この「デルフォス」、設計図は残されているのですが、その通りにつくろうとしても、再現は不可能だそうです。 それほどに複雑なプリーツがとられているのですね。打ち寄せるさざ波のように重なり合う襞、そのレイヤーの繊細さに感動させられます。
Img_54191jpg Img_55351jpg 













 ところで「デルフォス」が誕生したきっかけは、当時発掘された「デルフォイの御者」像(上の左写真)だったそう。この像を見た妻のアンリエッタのアドバイスがヒントになったとか。確かにこの御者像がまとっているものによく似ています。「デルフォス」の名称もこれに由来していたのですね。
 またフォルチュニはグラナダ生まれのスペイン人です。父親が画家だったことから画業を志し、パリに移り住みます。そこで妻となるアンリエッタと出会い、イタリアのベネツィアで暮らすようになったといいます。母親は日本のきものの蒐集家だったそうで、アンリエッタは日常的にきものを着こなしていたようです。きものはフォルチュニにとって身近な存在で、妻のためにも、きものスタイルのドレスを創作したのでしょう。妻思いの優しい人柄が偲ばれます。
 フォルチュニの「日本趣味」の謎が一つ解けました。
Img_54661  上はきものを着たアンリエッタです。

Img_55181  紫色のデルフォスにオペラジャケットの組み合わせ。1920年代の作品です。

 ところで、「デルフォス」を始めとする衣装を数多く所蔵しているのは、日本とアメリカで、肝心のベネツィアのフォルチュニ美術館には、服飾関連は意外にも少ないといいます。では何故日本に多いのかというと、かつて資生堂のモデルとして活躍した故ティナ・チャウのコレクションがあったからだそうです。
 80年代初めのティナ・チャウこと、ティナ・ラッツの透き通るような美しさが思い出されます。あの頃、フォルチュニ展がしばしば開かれ、私も見に行きました。それを再びここで見るとは、感慨深いです。

Img_54441  上は「デルフォス」収納用の箱です。

Img_55081jpg  絹製のプリーツの形状を保つために簾のようにドレスを巻き取り、さらに捩じってまとめると、驚くほどコンパクトになります。この簡便かつ携帯性の高さが、人気を押し上げる要因の一つになったそう。これも現代に通じる画期的な発明です。それにしても既に記したように、襞が美しい!

 Img_55201jpg  桜か梅、桃と思われる文様を配した羽織風ジャケットです。袖や襟の形がきもののように平面的です。とはいえ脇や袖の明き部分や衽が省略されていて、きものの仕立てではありません。西洋服の構成になっていることが見て取れました。
  
  テキスタイルにも驚嘆させられました。Img_55221_20190810093901
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  フォルチュニはドレスや外衣だけではなく、室内装飾用にも時として同じデザイン、材質のものを使用したといいます。 日本の布の図案をそのまま引き写して絹や木綿のベルベットにプリントを施したのです。Img_55301 出来上がった模様は、プリントではなく織物によるものとしか見えません。
 右はジャカード織のベルベットのようなプリント生地です。
 
 フォルチュニはプリントの技術を考案するなど、特許も多数取得していたといいます。
Img_54931  日本の染め型紙や型押し木型、プリント生地もたくさん出品されています。
 
 それにしてもこの「デルフォス」、もう復刻できないとはいえ、映画やTVドラマなどで時折登場します。「ダウントン・アビー」で、ミシェル・ドッカリーが着ていたのも「デルフォス」だそう。そのエッセンスは現代に受け継がれています。イッセイミヤケの「プリーツ・プリーズ」のように---。

 本展を見て、女性の身体をコルセットから解放し、自然な曲線を美しくみせるその先進性に、改めて感銘させられました。「100年経っても新しい」、この言葉がぴったりな展覧会でした。

 (なお写真は美術館の許可を得て撮影しています。)
 会期は10月6日まで。詳細はHP、https://mimt.jp/fortuny/をご覧ください。

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