東京農工大学繊維技術研究会講演会「私の繊維博物館学」
東京農工大学の科学博物館は、10年前の2008年まで繊維博物館の名称で親しまれてきました。実は私はこの旧繊維博物館で教官・学芸員をされてきた並木 覚氏と以前から交流があります。同氏がこの6月中旬、農工大繊維技術研究会の講演会に登壇すると伺い、聴講させていただきました。
タイトルは「私の繊維博物館学」です。繊維博物館の基礎がどのようにしてつくられ、どのような軌跡を辿ったのか、長年にわたる活動を通して語られ、大変興味深かったです。
まずは沿革から。その始まりは明治19年に創設された参考陳列室(蚕糸博物館)です。当時ヨーロッパでは蚕病が蔓延していて、このことを部外者にも知らせる必要があり、その対策のために建てられたといいます。明治政府は蚕糸産業を殖産興業の先鋒としていたのですね。
昭和15年に小金井に移転します。しかしその後30年間は、戦争とナイロンの発明もあり、蚕糸産業は低迷を強いられ、ほぼ“ねむり”についていたといいます。
昭和43年に第1回特別展「絹の錦絵展」を開催し、再スタートします。以後年2回の特別展が実施され、昭和53年に並木氏が着任。繊維原料から織物ができるまでを中心に「触れて試みる」展示法や、機械類もなるべく「動態」で展示する展示方針をとり、入館者が倍増。友の会も定着して人気を呼ぶようになります。昭和61年の繊維博物館創基100年記念イベントでは、ついに目標の1万人を達成したといいます。
ちなみにコットンに関する展示も何度か行われました。昭和63年の「コットンの世界展」では、展示協力もさせていただきました。印象的な思い出となって残っています。
上は、壇上で絹の糸繰りや撚りの実演をされている並木氏です。館内ではこのような風景が随所に見られたのですね。
次に繊維博物館の常設展示場 ――「大型繊維機械や繊維試験器」から、「繊維から織物ができるまで」、「手づくり製品と歴史的産物」、「化学繊維と工業製品」まで ―― を一つひとつご紹介していただきました。
現在は科学博物館となっていますが、繊維関連資料がずらり。繊維学部が工学部となって久しいですが----、さすがに重厚! 歴史の重みを感じさせる展示内容となっています。
繊維に関心のある方は、ぜひ訪れてみてください。きっと勉強になると思います。
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