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2018年7月 8日 (日)

アンティーク・レース展 ダイアン・クライスコレクション

 この春夏もレースが流行っています。パンツの上に重ねたスカートにレースが使われるなど、カジュアルにスポーツウェアに、様々なアイテムで見られるようになりました。これらのレースはほぼ機械レースか、あるいは化学的に処理されたケミカルレースです。
1_2 機械がなかった昔は、人間の手でつくられてきました。それが手工レースで、アンティーク・レースと呼ばれています。その技術は現在ではほとんど失われてしまい、再現は不可能といいます。
 このアンティーク・レースのコレクターで鑑定家でもあるダイアン・クライス氏の「アンティーク・レース」展が今、東京・渋谷の松濤美術館で開催されています。展示されているのは、同氏の膨大なコレクションの中から、16世紀から19世紀のレース全盛期の作品を中心にした約170点です。

Img_12951 先日、記念講演会が行われ、本展を監修された大阪成蹊短期大学教授 百々徹氏が、「21世紀におけるアンティーク・レースの魅力」と題して講演されました。その概要を以下にまとめてみました。

 まずレースの技法です。大きく二つあり、刺繍レースと組み物レースです。前者はニードルポイント・レース、後者はボビン・レース、糸巻レースとも呼ばれます。ニードルポイント・レースは、羊皮紙の上に下絵を描き、その上に職人がひと針一針刺し、そのモチーフをつないでつくったもの。ボビン・レースは、パスマントリー(房飾り)職人から生まれたもので経糸を三つ編みの要領で組んで網目状にしたものです。
 次にレースの歴史です。ニードルポイント・レースは16世紀のヴェネツィアで始まったといわれます。穴を開けてボタンホールステッチで止めたカットワークや、織り糸を引き抜くドローンワークが発展してニードルポイント・レースになっていったといいます。
 一方でフランドル地方で誕生したのがボビン・レースです。17世紀初頭にネーデルランド、すなわちオランダが独立します。フランドル地方はその南部です。北部は亜麻の産地で、布地や糸の漂白で古くから栄え、この二つの技術が組み合わさって、真っ白なレースが生み出されます。
 ルネサンスから17世紀バロックに移る頃は、このイタリア産レースとフランドル産のレースが宮廷文化を席巻したといいます。17世紀後半になるとルイ14世が統治するフランスが台頭し、宮廷の装いにレースは不可欠なものとなります。フランス国産のレース産業が奨励され、ヴェネツィアのレース職人が招聘されて、アランソンなど各地に王立工場が建てられます。そこからポワン・ド・フランスといわれるニードルポイント・レースがつくられていくことになります。
 18世紀、レースは技術的にも意匠的にも最高峰に達し、手工芸の粋を極めます。
 それが19世紀になると市民社会の到来で、機械による安価なレースが求められるようになり、手工レースは衰退していくのです。とくに分業でつくられてきたニードルポイント・レースは、今ではもうほとんどないといいます。しかしメヘレンのレースなどボビン・レースは、一人の職人がおびただしい数のボビンを使用してつくることもあって、細々ながら続いているとのことです。
 さらにレースの着衣学についても触れられました。18世紀に流行した袖飾りのアンガシャントにレースがたっぷり用いられたのは、ピアノを弾くときに袖口を優美に見せるためだったそう。貴族の女性の必需品だったレースの扇はコミュニケーションツールだったというお話しなど、興味深かったです。
 最後に、現代テクノロジーとレースに対する見解を語られました。今では3Dプリンターでアンティーク・レースそっくりのものもつくれるようになりましたが----、しかしそれだからこそ、「本物が価値を持つ」との言葉が印象的でした。「レースは今ひとたびの人間賛歌である」と述べられて講演を締めくくりました。

 レースについて知らなかったことが多々あり、後で実物を拝見して、職人たちの手の痕跡に改めて畏怖を覚えました。
 なお展覧会は今月29日までです。私たちが目にするものとは一線を画したアンティーク・レースの数々。その美と技に関心のある方は、どうぞお早めに。

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