こいのぼりなう! スペシャルトーク須藤玲子+齋藤精一
今、国立新美術館で「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」が開催されています。
同館でもっとも広い2,000㎡の展示室に、日本を代表するテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんがデザインしたこいのぼりが、ダイナミックに泳いでいます。入口から出口へ向かって曲線を描くように泳ぐ姿はなかなか壮観です。
本展は須藤さんがフランスの展示デザイナー、アドリアン・ガルデールさんとコラボレーションし、2008年にワシントンのケネディ舞台芸術センターで、次いで2014年にパリのギメ東洋美術館で発表した展覧会の新ヴァージョンとのこと。今回は、ライゾマティックの齋藤精一さんが加わって、オーガンジーの布を天井に張り巡らし、それが水面のように揺らぐ設計になっています。水中にもぐっているかのような雰囲気をそれとなくかもし出していて、心地よい感じです。またこいのぼりとはいえ、頭も背びれも尾ひれもなく、抽象化されていて、洗練された感覚を覚えます。
床にはソファが置かれていて、よく見ると無印良品の人気商品「人をダメにするソファ」です。川底の岩に見立てているようです。ソファに寝そべって、ゆったりとくつろいで眺めるインスタレーションとは、何と粋な計らいでしょう。
先日、関連イベントの一つ、須藤玲子さんと齋藤精一さんによるスペシャルトークがあり、またしても行ってきました。 冒頭の斎藤さんの言葉、「消えそうになっている考え方とか技術とか、なくなってしまってはいけないものを積極的に見つけにいきたい」が印象的でした。
まさにその輪の中の中心人物が須藤さんです。ブティック「布」をオープンした1984年頃は、存在していた技術が今やもう風前の灯で、何とか残せないものか、と全国津々浦々職人さんたちに働きかけ、現在もこの活動を続けているのです。
本展はその活動の一環。展示されたこいのぼりは319匹で、用いられている布地はすべて異なり、50カ所の工場の職人さんたちと一緒につくったものだそうです。そのいくつかが映像を交えて紹介されました。
まず3大絣の一つ、久留米絣です。現在も事業者が約100軒あり、本藍染めの括り絣が継承されていて、100年以上前の豊田自動織機で織られているそう。これには久留米高専の先生による括りの自動化技術の発明が大きく貢献したといいます。これにより1m数百円程度で本物を購入できるようになったのです。
次に山形県鶴岡市のキビソです。これは繭の周りの硬い部分で、従来廃棄されてきたものですが、紫外線吸収力や抗酸化作用などに優れていて、草鞋や帽子をつくったり、500デニールの細い糸にして織物を開発したり、エコでナチュラルなブランドとして推進しているそう。
さらに注目は伊勢崎銘仙の復元です。「21世紀銘仙~いせさき併用絣を紡ぐプロジェクト~」を立ち上げ、乏しい資料を基にスタッフの方たちが再現に成功されたといいます。2020年にはロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムへの出品も計画されているとか。
この他、桐生のオリガミプリーツなど様々な織物を見せていただきました。
日本の職人の技が欧米で評価され、ニーズがあるということに励まされた、すばらしい対談でした。
展覧会は今月28日までの開催で、入場無料です。とくにテキスタイル関係者は必見と思います。どうぞお見逃しなく。
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