特別講演 枠組みを問い直す―つくり方をつくるデザイン
「付加価値ある意匠デザインを実現するものづくり技術2017」が、去る5月19日、東京・日本橋で開催され、特別講演でTAKT PROJECT代表取締役の吉泉 聡 氏が登壇しました。
以前、デザイン展で作品を拝見したことがあり、これまで見たことがないようなものをつくるデザイナーと注目していました。テーマは「枠組みを問い直す―つくり方をつくるデザイン」です。
冒頭、ご自身が立ち上げた創業4年目のTAKT PROJECTを紹介。タイトルにある「つくり方をつくる」とは、「別の可能性をつくる」意で、同社はこれを基に新しい価値軸をつくることを重視して活動しているといいます。
お話の中で、印象に残ったプロダクツは次のようです。
まず量産ではないもう一つの可能性を追求した作品、「Dye It Yourself」(このブログ2015.11.30も参照)です。これは白いプラスチックのテーブルやイスなどの家具に、ユーザーが思い思いに染色をする事が出来るというものです。素材は「多孔質プラスチック」という、水分を吸収する工業用プラスチックで、染めると色が滲んで交じり合います。色彩は揺らぎ、一つとして同じものはありません。サクラや藍、紅花などの草木染染料を用いることで、懐かしい温かみのある表情が出せるのも魅力です。ユーザーはまるで水彩画を描いているかのように、創作を楽しめます。均質に大量生産されるプラスチックが、ユーザーによってたった一つの存在となる、カスタマイズの好例ですね。
次に「Composition」です。これは透明アクリルのモダンなフォルムの中に、家電の電子部品が一見バラバラに封入されているオブジェです。導電性のある複合材が使われていて、家電として機能するといいます。通電すると光を発し、スマートフォンで調光できたり、傾きを感知してON・OFFしたり、また非接触式充電もできるとのこと。
このアイディアを思いついたきっかけは、木の家具の上に置かれたガラスのコップだったとか。透明なこけし人形のような形をした懐中電灯など、家電の新しいデザインの可能性を拓くすばらしいアイディアと感銘しました。
さらに「Deposition」というのもおもしろい。金属と樹脂を一体化させる三井化学の特殊技術を用いて生まれた新素材で、工業素材の特性を活かしながら、自然素材の形をそのままに残すプロダクト、たとえばアルミで木の年輪や竹の節、マーブルのような効果を出したランプシェードやアクセサリーなどを提案。工業素材のもう一つの可能性を生み出すものと期待されます。
この他UVプリンティングなど、ツールの新解釈で別のつくり方が生まれるといった例をいろいろ披露していただきました。
最後に、既存の枠組をよく知り、そこから新しい枠組、つまり価値軸をつくっていくことが重要と強調。「デザインは付加価値ではなく本質価値」の言葉で締めくくりました。
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