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2016年8月 5日 (金)

「子どもは愛されたのか?ヨーロッパの子ども服の歴史」

 今、東京都庭園美術館で開催されている「子どもとファッション」展で、本展監修者で東京家政大学教授の能澤慧子先生の講演会が行われました。Img_75141jpg
 テーマは「子どもは愛されたのか?ヨーロッパの子ども服の歴史」です。
 西洋の歴史を紐解くと、かつて大人は概して子どもたちに無関心だったり、無視していたり---。現在の私たちからみれば躾という名の虐待も往々にしてみられたようです。

 能澤先生は、フィリップ・アリエスの『アンシャン・レジーム期の子どもと家庭生活』(邦題:〈子供〉の誕生 アンシャン・レジーム期の子供と家族生活)という著作に出会い、その内容に衝撃を受けたといいます。519k8x41nhl_sx340_bo1204203200_ そこには社会全体が子どもを「子ども」として捉えるようになったのは、18世紀後期以降のことと記されていたそうです。「子どもは厳しくしつけなければならない」という思想に長い間囚われていた大人たちは、子どもを現代と同じ様には愛され慈しんでこなかったのですね。
 
 講演は子ども服の歴史を、子ども服が誕生する以前の子どもたちが置かれていた状況や、こども服に見るジェンダー観などを交えて概観するもので、大変興味深かったです。

 まず人生最初の服からです。人は生まれるとすぐに、身体を細帯でグル巻きにされました。これが「スワドリング(包帯巻き)」です。乳児はミイラか繭のように縛られ、身体の自由を奪われます。子どもは放っておいては育たない、これは背骨をまっすぐにしっかりとさせる方法であると考えられ、中世以来行なわれてきました。
 しかし18世紀末に登場した自然主義思想家のジャン・ジャック・ルソーは「エミール」の中でこの慣習を糾弾、次第に廃れていったのです。

 このスワドリングは6~8か月頃までで、その後、足首まで届く長いワンピースになり、女の子は1歳半くらいで、大人とみなされ成人女性のドレス、男の子は男性用上着にスカートを着けるようになります。スカートをはく少年は、性のない、曖昧な存在と位置付けられたといいます。
 印象派のルノワールも我が子を女装させて描いています。ですからこの習慣は19世紀後半まで続いたようです。一昨年「こども展」という展覧会(このブログ2014.5.23参照)があり、そこで聞いた話ですが、無事成長した息子たちは、この絵を見て恥ずかしがったそうです。

 ともあれ男の子は5歳前後になると、ほぼ大人と同じ服装になります。ブリーチ(半ズボン)をはくので、「ブリーチング」と呼ばれ、一人前の男子になったお祝いの儀式が行われたそうです。日本でも「袴着の式」というのがありますが、それと似ていますね。
 大人のミニチュアのような姿となった子どもたちですが、その服装の中に、子どもであることの印のようなアクセサリーが見られたといいます。それがエプロン、ハンギングスリーブ、リーディング・ストリング、鉢巻きで、とくに女児に多く見られたようです。
 エプロンは服を汚さないように胸当てが付いています。とはいえ透ける薄地やレース製のものが中心で、装飾的です。ハンギングスリーブは腕を通さない装飾のための袖で、17世紀になると大人服では見られなくなりますが、子ども服では継続します。リーディング・ストリングは、子どもの背中につけた紐のことで、子どもが犬のようにつながれていたことがわかります。鉢巻きは頭を保護するためのもので、詰め物入りの帽子のようなものだったといいます。

 その後、18世紀後期になると、前述のルソーの影響もあり、子ども固有の服装が考案されるようになります。それが少年のスケルトンスーツで、短い上着と長いズボンをボタンでつないだ服です。そしてこの長ズボンがフランス革命後に、大人の服装に広がっていくことになるのです。
 そして19世紀、ようやく子どもが「子ども」として理解される時代となります。しかし子ども服は、当時の女性服と同様、装飾の対象で、とくに女児には着飾った衣装がたくさん見られます。子どももヴェブレンの唱える、富を持つ男性の見せびらかし消費の客体に過ぎなかったのですね。

Img_75161jpg  それが現代のようになってくるのは、19世紀末頃から。
 本展では、ケート・グリーナウェイの絵本が展示されていました。心地よさそうな服を着た、カワイイ元気な子どもたちが描かれています。

 現代までの子どもの在り方を、服装を通して大変わかりやすく解説していただき、またしても「かわいらしさは子どもがつくったものではなかった」とため息をつきます。
 少子化時代の今、「子どもは愛されたのか?」というタイトルにもドキッとさせられます。私たち大人は子どもという存在をどう見ているのか、考えるところ大な講演会でした。

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