「モードの身体史―近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化」内村理奈著
17世紀から18世紀にかけてのフランスは、ルイ14世治世下にあって、服飾文化の華が開いた時代です。本著は、この時代に焦点を当て、日常の身体行動の視点で、当時のモードを捉えた注目の書です。
著者の内村理奈先生は、跡見学園女子大学マネジメント学部生活環境マネジメント学科准教授で、服飾文化学会理事でもあり、日本ファッション協会うらら会でもご一緒するなど、親しくしています。夏休みには研究のため、毎年フランスに渡られ、パリではBNに通われていると伺っていましたが、昨秋、とうとうその成果を書籍にされました。ご著書を、ようやく読了し、改めてそのすばらしさに感銘しています。
とかく王侯貴族など上流階級のモードに偏りがちな西洋服飾史ですが、ここでは、庶民にもフォーカスされていることが大変新鮮でした。
とくに第1部「清潔―身体感覚の秩序」にある、リヨンでの遺体調書からの比較考察については、大変興味を惹かれました。これで白という色がいかに贅沢なものであったのか、がわかります。当時の人々の清潔感、皮膚感が伝わってくるようです。白い下着は盗難の対象になるほど貴重なものだったというのも面白いお話です。フランス語でクリーニング屋のことを、今なおblanchisserie(漂白屋)と言う理由も頷けました。
第Ⅱ部「服装規範―ふるまいの秩序」」では、現代も続く帽子の作法、その表象が、わかりやすい言葉で描かれています。普段よくかぶる帽子だけに、気づかされることの多い内容です。
第Ⅲ部「逸脱するモード―秩序の揺らぎ」は、服飾研究では大変重要な部分で、読み応えがありました。中でも仮面に関する論考は、大いに参考になります。上流貴婦人たちのみが付けたという黒い仮面の意味が解き明かされ、納得です。
それにしても膨大な文献資料をよく調べて、精査されていると、感心させられました。さすが学究の徒でいらっしゃいます。
これは私の大切な座右の本とさせていただこうと思っています。
「モードの身体史―近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化」
内村理奈著 (悠書館 2013.10) 3,780円(本体3,600円)
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