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2012年9月 1日 (土)

「遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である」(ちくま新書)読後感

 まず題名に惹きつけられ、副題にぎょっとさせられました。人間の能力はすべて遺伝子の影響をうけていると、はっきり突き付けられてしまったからです。それは確かに「不都合な真実」なのですが、しかしここでは不都合なのは遺伝子ではなく、社会や教育制度といった環境が遺伝子にとって不都合だと言っています。不都合=不平等と考えたら、わかりやすいと思いました。
 著者の安藤寿康氏は、私の知人のお兄様で、行動遺伝学や教育心理学を研究されています。この知人がお兄様の多数の著作の中で初めて読破した本というので、私も読んでみようという気になりました。遺伝と言うと理系的ですが、この本は文系です。とはいえ、やはり難解でした。
 しかし「遺伝は遺伝しない」の項で、「親と同じ遺伝的素質をもった子はむしろ非常に現れにくい」という個所は、目からウロコでした。私も「遺伝の影響があると親と同じ性質をもつた子どもが生まれる」という先入観を持っていましたから、少し救われたような気分になりました。
 「遺伝子の民族差はあるか?」も興味深かったです。遺伝子型の違いが、「集団主義的」文化か「個人主義的」文化かにかなり関連していて、韓国や中国などは集団主義的傾向が強く、アメリカやイギリスなどは個人主義的傾向が高い。日本はその中間に位置するといいます。これも何となくそう感じていたことでしたので、納得です。
 また能力差は遺伝だけではなく、環境要因も相当関わっていることを、双生児研究からつきとめた「遺伝と環境は算出できる」という項目も、面白かったです。SF映画「ガタカ」を見て、この映画の主人公が、宇宙飛行士には不適正とされた遺伝子を持っているにもかかわらず、可能性を信じて、ついに宇宙へ行く夢を実現させます。劇的な結末でしたが、希望を感じさせられました。
 最終章の「いかに遺伝的才能を発揮するか」では、「2万もの遺伝子の組み合わせからなる遺伝的組成はひとりひとりみな違い、予測もしなかった環境の中でそれが発現してくるのですから、だれも答えを知らない。ひとりひとりがその答えとなる物語を自分で作るしかない」、というのにも「やっぱり!」と同感しました。
 「遺伝子の不都合な真実」、これは遺伝子にとって不都合な社会や文化や制度の真実にきちんと向き合っていく必要がある、という、提言の書。いろいろ考えさせられるところが多い著書でした。一読をお薦めします。Photo_3

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コメント

兄が大変喜んでおりました。
くれぐれもよろしくとのことです。

投稿: minako ando | 2012年9月17日 (月) 11時08分

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