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2012年8月 9日 (木)

「現代の鍋島更紗」木版摺更紗の美に感動!

 今回の服飾文化学会夏期セミナーのハイライトは、鍋島更紗とその伝統の技を生かした木版摺更紗を継承する染色工芸家鈴田滋人氏の工房訪問でした。インド発祥の木綿地の文様染め更紗に、いつも特別な関心を抱いている私としては、これはまたとない機会です。このセミナーを計画し実現していただいた実行委員長の川村学園女子大学荻原延元先生に心より感謝いたします。

 鈴田邸は、佐賀県鹿島市能古見の緑に囲まれたのどかな田園風景が広がる一角にありました。こうした自然のリズムが鈴田氏の創造の原動力になっているのでしょう。広いお屋敷の片隅には気品に満ちたきものの作品や貴重な更紗資料を展示する資料館があり、ここで鈴田氏のお話を伺いました。
 
 鍋島更紗は、江戸時代に佐賀鍋島藩の保護のもとに参勤交代の際の献上品としてつくられていました。ですから和更紗の中でもとくに格調高い上質のものです。ところが明治の廃藩により状況は一変、苦しい立場に追い込まれ、大正の初めに途絶えてしまいます。
 しかし幸運にも、昭和34年頃、ご尊父の故・鈴田照次氏が骨董品の中から鍋島更紗秘伝書と見本帳を発見しました。そしてその技法を解明して復元に注力され、その成果を木版摺更紗として発表し、鍋島更紗の匠の技を今日に蘇らせました。その特徴は木版による地型、上型の打ち出しと、型紙による捺染色摺りとの併用にあるといいます。
 
 鈴田滋人氏はお父様の遺されたこの木版摺の技法を受け継ぎながらも、これまでにない新しいデザインの更紗模様を創作しています。毎年、日本伝統工芸展に出品して、高い評価を受けている染色界の第一人者で、2008年には54歳の若さで木版摺更紗の無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
 
 美しい絹地に染め上げられたオリジナルきものは、その多くが大胆な幾何学構成の柄で、今にも動き出しそうです。こうした視覚効果が感じられるのは、従来の更紗にはない余白が、きちんと計算された位置に置かれているからでしょう。文様も幾何学化されていてリズミカルです。柄は平面なのに立体的な奥行き感があり、かなり複雑そうに見えますが、使っている版木や色数は驚くほど少ないというのも驚きでした。非常にモダンで洗練された感覚で、これぞまさに「現代の鍋島更紗」と感銘しました。

 Cimg76791_3 写真は、昨年日本伝統工芸展に出品された典雅な「儚花樹(ほうかじゅ)」という作品。作品名にもこだわられています。

 


 

 


 工房では、制作の色摺りまでの工程を実演していただきました。

① スケッチ。題材は庭の植物で花や枝葉の自然な揺らぎをヒントに描く。
② デザイン。もっとも時間をかけるのはデザイン。イメージを考え、きものの柄に構成し、下図を作成する。
③ 木版作成。やわらかいので彫りやすい蝦夷つげの木に彫刻する。
④ 型紙作成。柿渋やニカワを浸み込ませた伊勢型紙を色摺り用の型紙に使って、色ごとに文様を分解して彫る。
⑤ 印付け。青花で印をつけ小さい穴を開ける。
⑥ 地型版打ち。 地型の木版に墨を付け、長い板に貼った布に体重をかけながら版を押す。写真は鈴田氏です。Cimg76841_2                                        ⑦ 色摺り。型紙に刷毛で色を挿しこむ。

 中でも版を打つ作業は、同じ強さで正確に、しかも数千回も打たねばならないといいます。本当に気が遠くなるような根気のいる仕事です。傍にはいつも優しい奥様が助手として控えていらっしゃいました。巨匠も奥様には頭が上がらない?と思ったりしました。

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